「競合他社に比べてスピードで劣っている」という現状認識

津賀社長が今回、引き際を決断するに当たって名門復活に向けた打開策として打ち出したのが、9年ぶりのトップ交代と持ち株会社への移行という決断だった。

次期社長の楠見氏は津賀社長と同じくエンジニア出身で、電池、白物家電、テレビなど主要事業を経験し、2019年に自動車関連ビジネスの再建を託され、津賀社長からの信頼は厚いとされる。

11月13日の記者会見で楠見氏はパナソニックの現状の課題について「競合他社に比べてスピードで劣っている」と語り、事業構造変革への取り組みを加速する考えを示した。その上で、「低収益の事業があり、どうするか考えなければならない」とも述べ、引き続き事業の取捨選択に当たる意向だ。

津賀社長が楠見次期社長に託したもう一つのリセットは2022年4月の持ち株会社への移行だ。津賀社長はこの点について「(持ち株会社移行で)会社の形も変わり、次の人に何を託すべきかも決まった」と、持ち株会社への移行をパナソニック復活への“切り札”と位置付けた。

創業者・松下幸之助が考案した事業部制に原点回帰

2022年4月からのパナソニックの新体制は、持ち株会社のパナソニックホールディングスの傘下に8つの事業会社をぶら下げる。責任と権限を明確化し意思決定を早めるのが狙いで、このうち4つを「基幹事業」と位置づけ、集中的な投資で事業立て直しを急ぐ。

4つの基幹事業で最大規模となるのは新たに設立する事業会社「パナソニック」で、国内外の白物家電や電気設備などを手掛ける。残る3つの基幹事業は、①流通業や製造業の効率化支援、②電子部品・産業機械、③EV用を含めた電池事業となる。

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楠見次期社長は11月17日の経営方針説明会で持ち株会社制の新体制は「創業者の時代に近い形になる」と語った。

創業者の松下幸之助氏は1933年に事業部制を採用し、それぞれの事業部に「自主責任経営」の徹底を求めた。津賀社長も持ち株会社への移行を「自主責任経営のもとそれぞれの領域で専門性を徹底的に磨く」と、創業者が考案した事業部制への原点回帰ともとれる思いを込めた。