こうした意欲的な著作だが、著者が実践している健康法は極めてシンプルだ。「『食事のカロリーを減らせ』『小さいことにくよくよするな』『運動せよ』以外に、医学的なアドバイスをするつもりはない。私は研究者であって医者ではないからだ」(474ページ)と記す。
その言説には説得力がある
逆に、事実のみに立脚する研究者だからこそ、その言説には説得力がある。「砂糖、パン、パスタの摂取量をできるだけ少なくする。(中略)1日のどれか1食を抜くか、少なくともごく少量に抑えるようにする。スケジュールが詰まっているおかげで、たいてい昼食を食べ損なっている」(475ページ)。昼食を抜く理由は評者と同じだった。
著者の思想は、現代哲学の主要テーマである身体論にも通じる斬新なものだ。地球科学を専門とする評者は、野口晴哉の身体論を導入して身体論的地球科学を進めているが、著者のアプローチも自然科学としての医学に身体論を埋め込んで「老いなき世界」を実現しようとする。これこそ新しい学問分野を切り拓く発想と評者は大いに期待している。
さて、本書は世界20カ国で刊行されベストセラーとなったが、もちろん人には寿命があり、誰もが120歳を実現できるわけではない。しかし、ウィズ&ポストコロナの不透明な時代を明るく生き抜く際に、打ってつけの良心的科学書であることは間違いない。ぜひ一読を薦めたい。