ロート製薬の創業家一族に生まれた山田昌良さんが、関係会社であるアンズコーポレーションの社長になったのは今から6年前のことだ。ロートの看板商品であるリップクリームの生産をOEMとして全量生産するなど、仕事に困っているわけではなかったが、先行きに強い不安を覚えたという。山田さんが引っかかったのは、全社員で300人ほどの社内に広がったある口グセだった——。
本社の空気に違和感あり
私は大学卒業後、大手化粧品会社を経て、父がトップを務めていたアンズコーポレーションに入社した。4年目からの12年間、子会社の立て直しにあたり、本社に戻ったのが2011年だった。心機一転、期待を胸に新しい職場に向かったが、本社の空気に違和感を覚えた。
会社の状況を把握するため、各部門の会議に出席させてもらっていると、「今まで~していましたので」という言葉を幾度も耳にしたのだ。社員一人ひとりは、まじめに仕事をしているが、「前例」や「社内事情」を気にしていて、お客様のほうを向いていない気がした。
今となっては笑い話だが、会議でこんな一幕があった。使う際にポンプを押す方式のある商品で、粘度が高すぎて、最後まで中身を使いきることができないという問題が起きた。なんと2割以上も残ってしまうという。ところが、「クライアントがこれでよいと言っていますので……」と、改善しようとしない。たしかにOEMでは発注元のリクエストが最優先すべきだが、お客様は使い切れない商品に納得するのだろうか。お客様、つまりエンドユーザーのほうを向いていない会社に未来はあるのか。不安だけが強くなっていった。
課長たち30人から、答えが出てこない
誰のために仕事をしているのか——。そのことを社員にあらためて問うために、課長以上の約30人と1泊2日の幹部合宿を行った。2日間にわたり、グループ単位でディスカッションを行ったのだが、合宿終了時になっても、この問いに対して、私がほしい答えを言う者は出てこなかった。答えが出てこないのは、日頃から事業目的を意識していないからだろう。社員個々人の問題ではなく、会社全体のマネジメントの問題だと受け止め、根っこから見直す覚悟を決めた。