模範的な夫、理想の父親でいられる自信がない
「もともとひとりが好きで、35歳まで独身だった自分が“できちゃった結婚”により妻と子どもという家族を持つことになった。“夫”にも“父”にも慣れない自分は、いまさらだが結婚に向いていないとわかった」
そう薄く笑うTさんは、妻からの愛情も重荷に感じていた、と話す。
「栄養バランスのことを考えて、朝昼晩と玄米と野菜中心のおかずの食事をつくってくれるのだが、実は自分はラーメンやハンバーガーで十分幸せを感じるタイプ。せめて昼くらいは外で食べたいが、子育て中の妻と毎日自宅にいる今はそれも許されないのがつらい」
Tさんはやがて、コロナ禍が収束しても、このままずっと朝から晩まで家族のいる家で仕事をすることになることを想像すると片頭痛が起こるほど、“夫”と“父”という肩書にプレッシャーを感じるようになった。
「コロナ以前は『結婚しても自分は外で好きにやっていればいい』と軽く考えていたが、これからは結婚生活に以前のような自由はないと知った。模範的な夫、理想の父親でいられる自信もまったくない。自分らしい人生を送るためにも、別居するしか選択肢が思いつかなかった」
Tさんは現在、自宅の近くに部屋を借り、ひとり暮らしをしている。妻と子どもとは週末に会うだけのライフスタイルが定着し、あれほど悩まされていた片頭痛はピタリとおさまったという。
コロナ前からくすぶっていた欲望が姿を現した
「男として“もうひと花”咲かせたい」「自分で稼いだお金は自分に使いたい」「家族の犠牲になるのではなく、自分らしく生きたい」という“マジメ夫”たちが引き起こす反乱は、実はコロナのせいではなく、コロナよりずっと前から自分自身のなかにくすぶっていた本音ベースの欲望であるはず。
コロナというウイルスが与える影響が大きくなり、「これからどう生きていくか?」という問題を、一人ひとりに突きつけられる局面に立たされた時、その眠っていたはずの欲望が顕著になってきたのではないか。一度きりの人生を自分でデザインしていく権利は誰にでもあるのだ。
もちろん、結婚していれば話は別。妻や子どもという家族がいれば、自分だけ身勝手な選択をすることは許されるはずもない。大事なのは、「自分と家族がどうしたら全員幸せになれるか?」を考えること。そのためにはまず、意見の衝突を恐れず、本音で話し合うこと。失うものも大きいのが離婚だからこそ、急ぐ必要はまったくない。離婚はしないに越したことはないのだ。