「いわゆるドブ板選挙で一票一票稼ぐというんじゃなくて、イメージ作戦を取り、それを保持、持続させる。基本はこれだけなんですよ。具体的な実績や政策は、プロの政治家から見たら評価されるかもしれない。でもそれより、今、この社会を包む空気やムードはどうなのかを見極めなくては勝てません」
結局、票を左右するのはプロの政治家ではなく一般市民だ。彼らの心を本当に動かすものを知っているものこそが、票を支配するのだ。
実際、小泉元首相の第一回総裁選から、重箱の隅をつつくような施策より、飯島氏は「今の日本で何が大事か、何をすべきか」という視点だけで戦った。
「最後の総裁選も、たった数百万人の党員の支持より、街頭と郵政民営化というイメージだけでやった。臨場感あふれる演説と党の事務所での様子をすべてマスコミに公開したんです。自民党より有権者、有権者より市民――。その結果、日本国民1億2000万人のうねりが、数百万の党員をのみ込んでしまった」
そして、小泉氏は見事勝利した。では、今、当時の日本と同じようなうねりが米国全体を覆いつくそうとしているのか。人心を知り尽くした演出家たちによる精巧な演出につき動かされる無数の票。政治の本質をほとんど理解していない人々の力は、本当に正しい未来へ向かっていると言えるのか?
「やっぱりその道何十年のプロ政治家たちから見たら怖いでしょうね。乱世である今のアメリカで、気持ちいいことだけ語るオバマが勝利して政治を動かせるのか。それだったら日本だって、雰囲気だけの民主党政権や、1年生議員でも政治ができるということになってしまうかもしれません」
そんな意味では、まだスタートラインに立ったばかりのオバマを、今後、もう少し冷静に見つめたいと飯島氏は考えている。
彗星のごとく現れた米国大統領の座に最も近い男オバマは、米国のみならず、混乱する世界の救世主となるのか。それとも人心掌握術に恐ろしくたけた、ただの天才俳優に過ぎないのか――。
その答えが出るのは、選挙が終了してのち、しばらく時を経てからのことになるだろう。