今、かつてないほどに米国の威信が揺らいでいる。サブプライムローン(低所得者層向け住宅ローン)問題は、米国経済を急激に減速させ、イラク戦争で死亡する兵士の数は減る気配がない。未来への不安を抱えながら、米国民はなぜ、今、バラク・オバマに将来を託そうとしているのか。

米国政治に詳しい明治学院大学副学長、川上和久氏は、

「自国の未来に希望が持てず、未来が不透明だからこそ、特に若者たちがオバマを支持した」と語る。

かのレーガン大統領の選挙時と同じく、社会が行き詰まった状況で最も有効な言葉こそが、オバマが掲げる「変化」なのだと川上氏は言う。

「ヒラリーみたいに、私は大統領になった翌日からホワイトハウスで仕事ができますと主張しても、それは今までと同じに過ぎず、何も変わらないじゃないかと思われてしまう」

オバマが、米国に「変化」を起こすと主張しても、具体的な現実を変えるロードマップは示されていないし、示す必要がない。具体策を示せば必ず、その弱点、欠点が浮かび上がってくる。

「暗殺される危険も冒しつつ演壇に立っているという健気さといったものも含め、とにかく『情』で有権者の潜在意識に徹底的に訴える方式を貫き通す。そこで熱伝導が起こるのです」(川上氏)

「オバマこそ、衰退していく米国に残された民主主義を具現化した人物」とあるシンクタンクの米国人研究員は語る。アメリカ合衆国とは、民族の集合体であり移民の国だ。かつて米国に自由と希望を求めて来た人々は民族的な独自性を消しては、米国社会へ同化しようとした。そこで彼らを1つにまとめたのが民主主義だったのだ。苦しい今こそ、そこに立ち返れというメッセージは強烈に米国人の心を揺さぶる。

「アメリカという国は、世界中どこよりも徹底した民主主義を貫くんだなと思いましたね。経済が弱っていようとも、世界の中心という地位からずれようと、とことんそれを貫くことがアメリカの力の源泉だと、みなが強く信じているんじゃないでしょうか」

と語るのは、2007年に防衛大臣として米国を訪問、副大統領ディック・チェイニーや国務長官コンドリーザ・ライスとも会談した小池百合子氏だ。小池氏はオバマ演説を次のように分析する。