米中の覇権国争いの激化と韓国の対応

リーマンショック後、世界のリーダーの座をめぐる米中の争いが激化してきた。その1つとして、今後の世界経済に無視できない影響を与える5G通信分野で米中は主導権を争っている。

米国は世界の5G通信網整備に影響力を持つファーウェイへの半導体供給網を遮断し、中国の覇権強化を阻止したい。ファーウェイ傘下のハイシリコンの半導体設計・開発力は世界的に高い。しかし、中国全体で半導体の生産能力は発展途上であり、それが弱みでもある。

言い換えれば、米中は世界の半導体の供給基地としての存在感を強めてきた韓国と台湾を奪い合っている。その状況にうまく対応することによって両国は自国の存在感をさらに高めることができたはずだ。

現時点で、韓国の文大統領は米中対立にうまく対応できていない。2018年以降、韓国の輸出は減少基調だ。対照的に、今までのところ台湾は変化に対応してきた。昨年半ばごろから台湾の輸出に下げ止まりの兆しが表れたことはそう考える理由の1つだ。重要なポイントは、トップが国家の安定に何が重要かをしっかりと認識していたか否かだ。

米中双方から必要とされる台湾半導体企業

まず、台湾の対応を確認しよう。さい英文えいぶん総統は「世界経済が激動の時代を迎え、経済のデジタル化の進行によって高性能の半導体などIT先端分野の重要性が高まる」と明確に述べている。その考えをもとに蔡氏は安全保障面で米国との関係を強化した上で機敏に中国の需要を取り込む体制を整備した。

重要な役割を果たしたのが半導体受託製造大手のTSMCだ。同社は日米蘭から最先端の製造技術を導入し中国にはない5ナノメートルの半導体生産ラインを確立して競争力を高め、ファーウェイの需要を取り込んだ。

9月以降TSMCは米国の制裁強化に対応し、ファーウェイへの出荷を止める。慌てたファーウェイはTSMCからの調達を急いでいる。それが現在のTSMCの業績拡大と台湾経済を支えている。

一方、TSMCは国家の安全保障政策にもとづいて米国事業を強化し、アリゾナ州に大規模な生産施設を建設する計画だ。米中双方から必要とされる力をつけることによって、台湾は米中の対立やコロナショックに対応していると評価できる。