外国人株主という意外な要因
それでは景気が回復してくれば、賃金アップを望むことができるのかというと、どうやらそれも厳しいようだ。前出の水野氏は労働分配率の推移に注目する。労働分配率は利益総額に占める人件費総額の割合であるが、大企業・製造業のそれは80%を超えていた90年代半ばから下がり始めて、07年第2四半期には61%にまで落ち込んでいる。
労働分配率をそこまで下げざるをえなかった理由の一つが、日本企業のグローバル化にともなう“外圧”だ。07年度における全国五証券取引所上場会社の外国人の持ち株比率は27.6%で、10年前の14.1%と比べてほぼ倍増した。代表的なグローバル企業の直近の個別データを見ると、ソニーが48.0%、キヤノンも44.4%が外国人の持ち株で占められている。
彼ら外国人投資家が出資先の経営のよし悪しを判断する重要な指標が、株主資本を使ってどれだけ利益をあげられたかを見る株主資本利益率(ROE)だ。そのROEを少しでもアップさせる方法が、利益を伸ばしながらコストを減らすことである。だから02年以降の景気回復期においても人件費の伸びを利益の伸び以下に抑えて、ROEの改善を図ってきたのだ。
「それでも日本企業のROEは10%弱にすぎない。対して欧米企業のROEは10~15%。この数字を改善しないと、外国人株主が逃げ出しかねない。M&Aの株主交換で合併・吸収されてしまうことだってありうる。そう考えると労働分配率のアップは期待しにくい。大企業だからといって、賃金アップが望める時代ではなくなったのかもしれない」と水野氏は指摘する。
これからは解雇に踏み切る前に、ワークシェアリングで賃金カットという痛みを分かち合いながら、雇用を維持していこうとする動きも強まってくるだろう。となると、マイホーム、子どもの教育などライフプランを見直し、家計のダウンサイジングを図っていくことも必要になってくるのではないか。