年収1000万円で8万9000円の減収

では、かくも厳しい賃金カットの嵐を呼び込んだ犯人として“やり玉”にあげられるものとは何か――。

その答えの一つが「円高」である。円高に進めば、自動車、電機などの輸出関連企業の業績は為替差損で大きな痛手をこうむる。その輸出関連企業の株式の時価総額は東京証券取引所一部市場の6割ほどを占めている。業績悪化を嫌気されて、それらの株式が売られれば、市場全体の株価を押し下げる。そして、生活の先行きに不安を感じた個人が財布の紐を固く締め、百貨店、スーパーなど非製造業の業績悪化へつながり、日本企業全体に賃金ダウンの圧力がかかってくる。

「サブプライムローン問題に端を発した昨年9月のリーマン・ショックで金融不安が一気に台頭し、リスク回避で円が急速に買われた。金融不安は峠を越えたと何度もいわれながら、一向に払拭されていない。欧米との金利差を見ても円が買われやすい環境は変わっていない。これから円安に進んでも1ドル=100円がいいところ。逆に1ドル=80円前半もありうる」と第一生命経済研究所の永濱利廣主席エコノミストは指摘する。

そうなると「円高-賃金ダウン」という負のスパイラルが、これからも続いていくことが懸念される。そのなかでも特に気になるのは、自分の賃金がどのくらい下がるかであろう。

表を拡大
給与ダウンを引き起こす金融危機の影響

それに応えるべく永濱氏が行った興味深いシミュレーションの結果が右の図表だ。WTI価格については最近落ち着きを見せていることから1バレル=40ドルを前提とし、為替を1ドル=80円と100円、日経平均株価を6000円、8000円、1万円として、その組み合わせ計6条件での試算を2008年度と09年度について行っている。

08年度について一番楽観的なパターンの1ドル=100円、平均株価1万円で見ると、平均賃金に近い年収500万円の世帯で6000円のダウン、1000万円の世帯になると倍の1万2000円のダウンとなる。一方、09年度については一番悲観的なパターンである1ドル=80円、平均株価6000円で見ると、500万円の世帯が4万5000円のダウン、1000万円の世帯では8万9000円ものダウンを強いられることになるのだ。

「なんだ、10万円未満か。たいしたことがないじゃないか」と思う人がいたとしたら、後で泣きを見る可能性が高い。なぜなら「あくまでも為替、株価、WTI価格という3つの条件から見たものにすぎない。輸出の落ち込みなど実体経済の悪化はまったく反映されていない」と永濱氏が釘を刺しているからだ。