これは私たちが彼に「投資に関して大事なことをこの紙に一言で書いてください」とお願いした時に、彼が1秒も迷うことなくサラサラと書いた言葉だ。
これはとても深い言葉だ。コロナ相場の今、簡単に金持ちになれるチャンスがあると勘違いをして、初心者が相場に入り込んできている。証券口座の開設数が急増しているのだ。しかし、今の相場で儲けられるのはその前から準備をしてきた人だけだろう。そして、運よく今、儲けることができても、それが実力ではないならば、いずれそのお金は無くしてしまうだろう。
「市場は必ずしも合理的に動かない」
ロジャース氏はさらに続けた。
彼はとにかく勉強の大切さを訴えていた。彼自身も不勉強で失敗したことがたくさんあるからだ。
「いろいろと失敗はしてきたのですが、最初の頃、ほとんどの人たちが破産している状況の中で、私は数カ月間に資産を3倍に増やすことができました。そのとき投資はとても簡単なことだと思っていました。しかしその5カ月後には、市場を読み誤って全てを失ってしまいました。私はこのあと諦めずに勉強を続けた結果、大きな成功を手にできたのです」
失敗の原因の1つを教えてもらった。
「市場は必ずしも合理的には動かないということです。たとえば、自分が明らかな暴落の予兆、暴騰の予兆を把握していても、そうはならない。以前私は、私の知っていることは、みんなも知っているから、みんなは私と同じ行動をすると思っていました。でも、違う。私が市場で成功を収めるためには、市場について、人々について、そして他の投資家についてもっと知る必要があることが分かってきました」
大事なのは、投資対象そのものの研究だけではなく、それを取り巻く人間の状況も詳しく勉強する必要があるということ。
これをコロナ相場で考えるならば、「この企業の売上は間違いなくあがる」と確信を持ったとしても、その次には、市場全体はその企業についてどのような行動をとるのかも考える必要があるということだ。自分だけの情報では市場は動かず、その情報が行き渡れば市場は動く。コロナ相場で考えることは投資対象そのものと、それを取り巻く人間の2つだ。
「昨年は、ほとんど株を保有していなかった」
これは去年9月にロジャーズ氏が私たちに語ったことだ。他の通貨より米ドルを主に保有しているのは、相場の混乱時には安心感のある米ドルが買われるからである。私からの補足だが、世界経済の危機の時は、さらに安心感があるのは円なので、円高になることが多い。現にこの記事を書いている今も円高が進行している。
しかしこの記事を書く数週間前は、コロナ騒動により一時的にドルの確保という動きがアメリカで発生し、ドル高だった。さらにいえば下落した株式市場と比較すれば当然、米ドルも円も相対的にあがっているので、円かドルかは重要ではない。
ここで大事なことは、去年の段階で株価が割高なので株をほとんど持たず、現金にしていたという事実。この話はコロナ後に語っているのではなく、コロナ前に私たちに語っていたことなのだ。彼は今、割安になった投資対象を探したり、買ったりしているだろう。