外来クラークを引っぱる存在になるために
特定業務支援職員試験に合格したとき、とりだい病院で働き続けることができるのだと、嬉しくてたまらなかった。そして自分が外来クラークを引っ張っていかなければならないという意識を強く持つようになった。今、鷲見は新たな資格を取得するため勉強中である。
「診療情報管理士っていう資格なんです。先生が書いたカルテの分類、整理などを学んでいます。先生や看護師さんたちが記録したカルテを見ても、今、私は半分ぐらいハテナなんです。だから、もっとカルテを読み取れるように、理解できるようになりたい」
現在、鷲見は週2日は麻酔科、残りの日は他の診療科の受付を担当している。麻酔科は他の診療科と性質が違う。根本的な治療ではなく、さまざまな症状を持つ患者の痛みを抑えることを目的としている。
「まずは(患者の)顔色を見て、表情を見ます。軽く世間話ができるような状態なのか、それでさえしんどいのか。それによって対応を変えます。歩くスピード、所作も見ますね。私の物差で気がついたことがあれば、看護師さんや先生にメモ帳に書いて渡しています」
とりだい病院は増築を重ね、複雑な造りとなっている。検査などで移動の必要があるとき、無機質で変化の少ない廊下は迷いやすい。そこで鷲見は患者に渡す地図に、一緒に線を引く、あるいは分かりやすく絵を付け足したりしている。
彼女は「大したことないですよ、当たり前のことです」とうつむき気味に言った。
一般的に山陰の人間は押し出しが強くない。どちらかというと、自分なんて、と後ずさりするような種類の人間が多い。
――私、自分のことを話すのが苦手なんです、上手く説明できなくてごめんなさい。
取材中、鷲見は何度もそう言って申し訳なさそうな顔で頭を下げた。
声高に自分の功績を語る人間が目立ちがちである。しかし、社会や組織を本当に支えているのは、鷲見のように控えめで、勤勉な人たちなのだ。