多くの国立大学附属病院が人材不足という悩み

よかれ、と思った政策が逆の結果を招くことがしばしば起こる。

2013年4月に労働契約法の改正が行われている。18条(有期労働契約の期間の定めのない労働契約への転換)では“有期労働契約が繰り返し更新されて通算5年を超えたときは、労働者の申し込みにより、期間の定めのない労働契約(無期労働契約)に転換できる”と規定。

1年程度の契約更新を繰り返している、立場の弱い非正規労働者を「正規雇用」へと転換させるという意図だった。ところが、経営基盤の弱い雇用主は、5年未満で契約を打ち切るようになったのだ。

近年、医療機関の経営の脆弱ぜいじゃくさが問題となっている。特に大規模病院では最新医療器具の導入が不可欠である。莫大な設備投資費によって、ちょっとしたつまずきが経営の傾きにつながる可能性がある。

とりだい病院のように公益性の高い医療機関は、質の高い医療を継続して提供することが何より大切である。そのため、医師、看護師の人材確保を最優先として、それ以外の人材は1年更新の非正規雇用でまかなってきた。その手法がこの労働契約法改正で不可能となったのだ。

とりだい病院で総務を担当する前副看護部長の藤井春美は、多くの国立大学附属病院が人材不足という悩みを抱えていると言う。

「特に看護助手と外来クラークが足りない。仕事を覚えて5年が経つとやめて、他に行ってしまう。最大5年間というのが分かっているので、募集してもなかなか能力のある人が来ない」

正社員登用の新制度に応募、全試験官一致で合格点をもらう

労働契約法改正から5年後の2018年4月、とりだい病院は、一部のパートタイム職員について、無期労働契約への転換を始めている。2013年に契約を結んだ非正規職員たちの契約期間が終了する時期となったからだ。

このパートタイムは1日上限6時間で最長5年間。5年後、希望者は登用試験に合格すれば任期が消える。しかし、雇用形態はパートタイムのまま。子育てなどで短期間の労働時間を望む人間以外には不十分な雇用形態だった。

国立大学附属病院が人事面での自由度が低いのは、大学の管轄下に置かれているからだ。人事面で大学職員全般の基準が適用される。どうしても医療の現場にはそぐわない例も出てくる。

そこでとりだい病院は鳥取大学に特例を申請、2019年から「特定業務支援職員」制度を始めた。この採用試験に合格すれば任期3年の常勤職員となる。そして3年後の登用試験に合格すれば、無期労働契約に転換できる。その分野には、医療事務、診察補助。そこには外来クラークが含まれていた。

昨年、初めて特定業務支援職員制度の試験が行われた。前副看護部長の藤井は採用担当でもあった。

「初めてできた制度なので、本当に能力のある人、やる気のある人を選ばなくてはならないと思っていました」

外来クラーク部門の応募者は20人近く。合格者は2人だった。一人が鷲見である。

「どんどん知識を吸収したいという意欲が伝わってきた。そして応募書類、面接で、患者さんの気持ちに寄り添いたいという言葉が出てきた。合格すれば、定年までいる正職員になる可能性が高い。そういう思い、気持ちを持っていることを一番大事にしました」

鷲見には全試験官が一致して合格点をつけたという。