民主的改革が不徹底だったことから

戦時統制下で翼賛体制に組み込まれてお上を常に意識してきた日本人の精神も簡単に変化することはなく、1970年代におおむね高度成長が一服すると、日本人の忠誠意識は「国家」から「企業」に転換しただけで、翼賛意識は温存された。「企業社会」の誕生である。兵士はモーレツ社員となり、終身雇用と年功序列といういささか軍隊的な帰属意識が蔓延した。企業内部に疑似国家ができたわけである。

教育方面では、敗戦により国家への忠誠が徹底的に排除されたものの、軍隊的な方針はまったく改善されないまま残存し今に至る。一時期問題になった「丸刈り」(現在ではさすがに廃止)や、諸外国に例をみない危険な組体操が、現在でも学校教育の現場で平然と行われているのは、教育が国家への忠誠を排除した代わりに、教職員団体や学校機構そのものへの忠誠へと置き換わったにすぎないからである。

こうして日本社会は、敗戦という一大混乱を経たにもかかわらず、民主的改革が不徹底だったことから、その意識は翼賛的なまま現在まで温存されてきたのであった。

真の民主的な自意識の涵養が急務

つまるところ「島国根性」「日本人気質」とは、伝統的に日本人や日本社会が有していたものではなく、戦時体制下の気質が高度成長を経て、日本人が護持し、なまじその強烈な同調体制がこれといった弊害を生むことなく、結果経済大国となった過去五十年余の成功体験からきているのである。こういった日本人気質は、日本の歴史の中で日本人が持ちえなかった、悪い意味で全く新しい民族性なのである。

しかしもはや、日本社会は1940年体制とは全く違っている。非正規雇用が全労働者の約4割に至り、企業社会の根幹をなす終身雇用と年功序列は形骸化が叫ばれて久しい。産業界には旧財閥の垣根を超えた新しい企業体が勃興している。にもかかわらず、人々の意識だけが戦時統制下の影響を強烈に受け続けているのは、ひとえに敗戦後の民主的改革が不徹底で、中途半端で封建的な意識が人々にびまんしているせいであり、そういった意識の中でも日本社会が何とか回ってきたからに尽きるのではないか。

今次コロナ禍で浮き彫りになった日本人気質は、日本の歴史の中で「異形」のものであるとの認識を共有し、すでに終わった1940年体制に代わる、真の民主的な自意識を涵養かんようすることが急務だが、その道のりは険しい。

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