代用したのは果物の皮、ペットボトル、ブラジャー…

冒頭の女性に中国のマスク事情について聞いてみると、こんな答えが返ってきた。

「中国でも1月末から2月末くらいまでの間、マスクはかなり不足していました。上海の薬局でもマスクが買えなくて、殴り合いのトラブルになったという話も聞きました。手に入らないので、やむを得ず代用品を使う人もいた。例えば、オレンジやグレープフルーツなど果物の皮とか、ひょうたんの皮、頭から顔まですっぽり入るような大きなペットボトルとか、ブラジャーのカップ、生理用ナプキンなど。まるでジョークみたいな話ですが、本当なんです。幸い、私はそういうものは使わずに済みましたけど……」

この女性はPM2.5対策として、普段からマスクを買い置きしていたため大丈夫だったというが、まったく持ち合わせがなくて困った人もいた。また、武漢を含む湖北省や浙江省など感染者が多かった地域では、たとえ使い捨てのマスクがあっても心配でたまらず、N95マスクなどの高機能製品を求めたり、マスクの上からさらにビニール袋を頭からすっぽりかぶったり、目元にスキー用ゴーグルを着用するなど、二重三重にしっかりガードしていた人もいたという。

写真=EPA/時事通信フォト
マスクや手袋、ペットボトルを改造したものを装着した少年たち=2020年2月1日、中国・広州空港

しかし、日本人が使っているような手作りマスクをしている人は、中国のSNSやニュースでも、全然見かけなかった。その理由はなぜなのか。日本に3年ほど住んだ経験のある中国人女性に聞いてみたところ、こう推測する。

基本的な裁縫ができることに驚いた

「中国でも、特に内陸部に行けば、刺繍をしたり、編み物をしたり、子どもの服を作るなど、手芸をする女性はもちろんいます。手芸というよりも、昔は必要に迫られて作っていた家事の一つでした。でも、現在、都市部の比較的若い世代で裁縫ができる女性はあまり多くはありません。ネットで布を購入して、コスプレ用の派手な衣装を作ったりする若い女性はいるのですが、そもそもミシンがある家庭自体、少ないでしょう。それが理由の一つだと思います。

私が日本に住んでいたときにとても驚いたのは、多くの日本人女性は基本的には裁縫ができる、ということでした。面倒だからしないとか、上手じゃないから作らない、という人も当然いるでしょうが、日本ではほとんどの女性が学校で裁縫を習ったことがあるんですよね。確かに、日本の女性にとって、幼稚園に通う子どもの袋とか、夫のワイシャツのボタンつけとか、日常生活の中で縫い物をしなければならない場面はけっこう多い。

学校のバザーなどもあると聞きました。だから、マスクがないなら布を買ってきて、自分でマスクを作ろうと考える人が大勢いるんだ、ということにも納得します。これは日本人、特に日本女性のすばらしいところだと思います」