子どもの面倒と慣れない家事とでただでさえ手一杯のところに、部署内のオンライン飲み会を提案してくる上司。隣の部長がオンライン飲み会によく参加していることに刺激を受けたらしい。上司の無駄な説法が続く。静止画像で対応したいがそうはいかない。オンライン故に終わりが見えない。

疲れ果てた翌日、上司が自らオンライン飲み会を主催し、部内コミュニケーションをとっているという旨の報告をしているのを小耳に挟む。「やったアピール」のためのエビデンス作りに巻き込まれると、部下にとってはこの緊急時にやることだけが増えて迷惑この上ない。

決めずに従う人間ほど出世する時代だったのが…

なぜ、このように決められない大人が大量発生しているのだろうか。

組織行動の学者の目から見るとシンプルな話で、原因はガイドラインなしに意思決定することに対しての訓練をせずに昇進してきた管理職が多いからである。

人間は置かれている環境に適応しようと自らの行動を変える生き物である。人々が似た傾向を持つのならば、それは「そうした方が得な環境」が影響していると考えた方が自然である。つまり、日本企業では決めないこと、リスクを取って意思決定しないことの方が、社内の居心地をよくし、本人の昇進にとっても有益で合理的な行動だったのである。かくして決められない上司が大量発生した。

危機対応時に求められるのは、基準を自分で作りだし、失敗した責任を被るリスクを取り、トライアンドエラーを繰り返し、朝令暮改といわれても環境に応じて断固として意思決定をしていくことである。これらをすることなしに上位職に上り詰めた人々が現在の危機対応をしていると考えると、最近の右往左往具合も納得がいくだろう。

残念なことに、多くの企業においてガイドラインなしにリスクを持って意思決定できる能力を持った人は、主要な昇進ラインから外れている場合が多い。彼らの価値を見いだす上司に恵まれないからである。

コロナ災禍にこれまでの調整能力は通用しない

長い間、日本企業のエリートビジネスパーソンに不可欠とされてきたことは、意思決定能力ではなくて調整能力であった。新しいことに対してリスクを計算しながら決定し、実行するというよりも、周囲との調整の中で自分の立ち位置を見いだし、その場所を遵守することの方に重きが置かれてきた。

減点主義の人事評価システムの下で高評価を得るためには、ハイリスクハイリターンの行動をするよりも、失敗せずにコツコツと評点を積み上げていくことの方が有益だ。上からガイドラインを示され、その中での最大公約数的な行動をすることこそが合理的な行動で、調整のうまさが出世の秘訣であった。