産経はなぜ「脅威にさらされている」と不安を煽るのか

さてこのあたりで新聞の社説を覗いてみよう。まずは産経新聞の社説(3月15日付主張)である。

「緊急事態宣言は、新型ウイルスの感染封じ込めのため、政府や都道府県に多くの対応手段を与えるものだ。感染拡大のペースが上がるなど、悪い変化の兆しが出てくれば、首相は緊急事態宣言を積極的に考えなくてはならない。タイミングが遅れれば、感染拡大を止められず、法改正の努力が意味をなさなくなる」

見出しも「緊急事態宣言 発出のタイミング誤るな」だが、沙鴎一歩や岡部信彦氏と真逆の主張である。産経社説は書く。

「この緊急事態宣言に対しては、私権を制限する措置を伴うとして極めて慎重に考えるべきだという意見が国会でも多く出た」
「平時であれば私権の制限は望ましくない。だが今は、免疫を持たず、決定的な治療薬やワクチンもない中で、人々は新型ウイルスの脅威にさらされている」

「脅威にさらされている」などと書くから不安を煽り、社会が混乱するのである。これでは安倍首相の唐突で異例の対策と同じだ。

治療薬やワクチンがなくとも、対症療法で多くの人々が回復しているし、治療薬とワクチンの開発も進んでいる。落ち着いて考えれば、新型コロナウイルスに脅える必要性は微塵もない。

さらに産経社説は「国民の生命と健康を守り、経済社会の秩序を維持するには感染拡大を阻むことが必要だ。それなくして、国民の私権を守ることは難しい」とまで主張する。

産経社説は安倍政権の対策で日本社会が混乱している現状をどう考えているのか。

新型コロナウイルスを「根絶できる」というのは間違いだ

繰り返すが、新型コロナウイルスは病原性も感染力も弱いし、致死率も低い。岡部氏も朝日新聞のインタビュー記事の中で次のように指摘している。

「感染者数の増加を見ると多くの人が『自分もかかるのではないか』と不安になりますが、退院した人が増えていることにも目を向けてほしいのです。致死率を考える際は、感染しても症状が出ない人やごく軽く済む人もいることを計算に入れる必要があります」
「私は医療体制がある程度保たれていれば、致死率はそんなに高くならないのではと思っています。重症になる人ができるだけきちんとした医療を受けられるようにしておくことが大事で、それができれば日本での致死率は1%前後で収まるのではないでしょうか」

沙鴎一歩はこうした岡部氏の考えに賛成である。産経社説を書いている論説委員は、新型コロナウイルスを根絶できると考えている節がある。新型コロナウイルスについて書かれたこれまでの産経社説を読んでも、そう感じられることが多い。

病原体を根絶することは難しい。1980年5月にWHOが天然痘の根絶を宣言しているが、根絶宣言を出した感染症はこの天然痘だけなのだ。感染症には根絶よりも、コントロール(制御)が求められる。