顔を見て言葉を尽くして説得する

もちろん、日高の独断専行型の気質も見抜いていました。権兵衛は日高に対し、「おまえは極めて優秀で、ひとりで戦う分には誰にも負けないだろう。しかし、後方にいる我々と綿密に連絡をとりながら、人を率いて戦うやり方はできんじゃろう」と説明し、日高を納得させました。

権兵衛が近代的な日本海軍の構築という大事を成しえたのは、もって生まれた才能ももちろんあったと思いますが、日本という国を大きく変えることに参画した薩摩に生まれたということが大きかったと思います。その中でも西郷兄弟や大久保利通などがいた地域(加治屋町)で生まれ育ったことは大きかった。以前、大久保利通を演じたときに、「西郷隆盛が影のようにいたからこそ、大久保はここまで大きくなったんだろうな」と、しみじみ感じました。故郷と友人は大切にしなくてはいけません。

いまの日本が失ってしまったのは、司馬さんがお書きになったような明治の人物像だということに皆さんが気づいているのだと感じます。だからこそ、そこに先達を探したいという想いが人々の心にあるのではないでしょうか。

(小澤啓司=構成 岩井賢一=撮影)