医薬分業に潜む「政策コスト」

——そこだけ聞くと、医者が不当に儲けられなくなり、患者は適正な価格で薬をもらえるようになる気がするですが。

撮影=プレジデントオンライン編集部

政策コストがかかりすぎて、そのコストをわれわれ利用者が払っているから問題なんです。政策コストとは、政策を実現するためにインセンティブを与える費用です。「医薬分業」で言えば、医師、病院から薬剤師、薬局に調剤業務を移行させための必要な費用です。

その政策コストの1つが、先ほど指摘した調剤技術料です。調べれば調べるほど、1兆9000億円の調剤技術料にどこまで合理的な根拠があるのか疑問がわいてくる。

一例ですが、高血圧、糖尿病、不眠、胃炎の70代の患者が28日分の薬を処方してもらったとします。病院内の場合は320円で済むのに、「門前薬局」に行くと3450円もかかる。

——病院内で処方されるより10倍以上も高いとは驚きです。

それだけではありません。そのなかでも調剤料は、院内が90円に対し、院外が2400円。実に27倍ですよ。それに「お薬手帳」ってあるでしょう。あれも持っていても持っていなくても、380円かかる仕組みになっている。

結局、医師のボロ儲けを防ぐための「医薬分業」が、薬剤師がボロ儲けする構造になってしまった。

——なぜ是正しないのでしょうか

それは大玉送りだからですよ。

根本的な見直しを怠り、既得権益が積み重なる

——大玉送りですか?

運動会で、隊列を組んだ子どもたちが、両手を挙げて大きな玉を移動させていく競技があるでしょう。調剤医療費を巡る問題を先送りしていくさまが、まさに大玉送りなんです。

2、3年で担当が代わる役人が長期的なビジョンもなく「医薬分業」を実現するために少しずつ修正した。そして「医薬分業」を達成してみると、必要以上に政策コストがふくらんで調剤技術料が1兆9000億円になった。

付け加えるなら「門前薬局」の増加が、薬剤師の雇用を生んで、薬科大学の定員が大幅に増えた。私学薬学部の定員は1990年代と比較すると2倍になっています。また人口1人あたりの薬剤師の数は諸外国に比べても飛び抜けて多い。増え続ける薬剤師が食べていくためにも、高額な調剤技術料が必要になる。そうした産業構造がつくられてしまった。