米国は双子の赤字が深刻になり、ドル安への可能性も


図3:増価しているアジア通貨(AMU乖離指標)

一方、図3に示されている円と中国・人民元は、前述したウォンやバーツとは異なり、アジア通貨のなかで増価している。円は、07年7月においては、00~01年のベンチマークに比較して14%ほど、過小評価されていたが、その後、増価傾向にあり、08年11月には数%の過大評価となっている。この1年ほどの間に円はアジア通貨のなかで約20ポイントの増価となった。また、人民元は、08年3月までは一貫して、00~01年のベンチマークに比較して過大評価もなく過小評価もなかったが、08年3月以降、アジア通貨のなかで増価に転じて、他のアジア通貨が減価するなか、08年11月初めには相対的に7%ほどの過大評価となっている。

このように、サブプライム・ショックに始まり、リーマン・ブラザーズ・ショックによって深刻化したグローバル金融危機は、ユーロをはじめとする欧州通貨を減価させるとともに、アジア通貨を減価させている。しかし、グローバル金融危機は、アジア通貨間において、ウォン等を減価させる一方、円や人民元を増価させるという非対称的な効果をもたらしている。言い換えれば、グローバル金融危機によって、バランスシートの傷んだ金融機関がドル資金を調達できなくなっていることによって、ドルを相対的に増価させる結果となっている。しかし、これは短期的な現象である。

アメリカ政府が金融機関へ資本注入を進めるにつれて、今後、財政赤字が増加することが予想される。アメリカの金融危機によって民間消費と設備投資が縮小したとしても、それ以上に財政赤字が膨らむ可能性が高く、そのことは、経常収支赤字を拡大する可能性がある。

00年代前半から発生していた双子の赤字(財政赤字と経常収支赤字)がより深刻になるかもしれない(一時期、「三つ子の赤字」(財政赤字と「家計部門赤字」と経常収支赤字)が発生していたが、住宅バブルの崩壊および金融危機の発生とともに民間貯蓄不足が解消した)。そのことは、長期的にはドル安が発生することを意味する。

(図版作成=平良 徹)