豊島岡女子、今年の東大現役合格者で「高校入学者はゼロ」

なぜ、これほど「完全中高一貫化」(高校募集の停止)が進行しているのだろうか。筆者としては、高校入試組の学力が中学入試組より劣っていることが多かったからではないかと考えている。そう考えれば、中学入試での間口を広げ、生徒たちを6年間じっくり育てたいと考えることは納得できる。

高校募集を停止した豊島岡女子の担当者は朝日新聞の取材に対し、「コメントしない」としている(2019年8月7日付)。だが、同記事において早稲田アカデミーの高校受験部長・酒井和寿氏は「中学入学者と高校入学者のレベルが、一番の理由だろう」と述べている。さらに記事では、豊島岡女子の今年の東大現役合格者は全員が中学入学者で、高校入学者はゼロだったことを紹介している。

わたしも来春より高校募集を停止する本郷の教員からこんな「ホンネ」を直接聞いた。

「高校1年生をみていると、高校入学組と中学入学組は学力的には競っているのですが、高校2年生、3年生と大学入試が近づくにつれ、中学入学組が高校入学組を一気に突き放していくのです。どうしてだと思いますか?」

こちらが思案していると、この教員はその核心をつく発言をした。

「それは、中学入学組が受験勉強のときに理科・社会の学習に打ち込んだことがアドバンテージになるからです。私立の高校入試用の受験勉強をしてきた子たちは、英語・数学・国語の3科にしか打ち込んでいないのですよ。この違いはかなり大きい」

大学入試センター試験(2020年度からは大学入試共通テストに名称変更予定)で国公立大学を狙うには、英語・数学・国語以外に、理科・社会から特定分野(たとえば、物理、日本史など)を複数選ばなければならない。それを考えると、中学受験で理科・社会に取り組んだ経験を持つ子は、その分、得点力が高いというのだ。

一方、高校入学組が学内を活性化させることも

一方、拙稿で書いたように、高校入学組が中学入学組に刺激を与えることもある。それは開成だけでなく、近年、進学校としてメキメキとその頭角をあらわしてきた東京都市大学等々力(世田谷区)にも言える。同校は高校募集をおこなう中高一貫校だ。

教頭の二瓶克文先生は言う。

矢野耕平、武川晋也『早慶MARCHに入れる中学・高校』(朝日新書/朝日新聞出版)

「数年前のことですが、わが校を完全に中高一貫化するかどうか、教員たちで話し合ったことがあるのです。高校募集を停止すれば、カリキュラムが一本化され、われわれの負担が軽減されることもありますしね……」

話し合いの結果、高校募集を続行しようということになったそうだ。どうしてか。二瓶先生は語気を強める。

「中学から入ってきた子は3年~4年学内にいれば、『中だるみ』のような状態に陥ることもあります。ちょうどそのタイミングで高校から新たな生徒を迎えることでぐんと風通しが良くなり、互いに切磋琢磨する雰囲気が生まれるんですね」

聞けば、東京都市大学等々力は高校募集からも優秀な子が集まる傾向にあるという。都立高校では小山台(品川区)・青山(渋谷区)・新宿(新宿区)など、神奈川県立では川和(横浜市)・多摩(川崎市)など、横浜市立では横浜サイエンスフロンティア(横浜市)といった上位校の受験する子たちがその併願校として、東京都市大学等々力を受験するのだという。また、近年は早慶やMARCHの付属高校の併願者も増えているそうだ。

東京都市大学等々力は、優秀な生徒を高校から迎え入れることで、学内全体を活性化するという戦略が功を奏しているのだ。