薬物依存から脱し「危険性」をなくすまでは自由の制限も
そして、薬物犯罪の場合には、初犯の場合には多くが執行猶予になるし、実刑になるにしても懲役3年くらいまでだ。
多くは、裁判が終わればすぐに(保釈される場合には裁判が終わる前。最近は保釈が多い)、長くても3年ほどで薬物犯は社会に出てくる。
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薬物依存からの脱却は、一定の時間が過ぎれば達成できるというものではない。当たり前だが、薬物依存からの脱却は、いくら時間がかかろうが「脱却した」と認められるまでは成立しない。
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ゆえに僕の案は、完全に薬物依存から脱却してもらうまでは、自由を一定制限する。薬物依存の危険性がなくなったかどうかは専門家にその判定基準を作ってもらう。更生プログラムが完全に達成するまでは社会復帰はできないようにする。これは一定の期間、刑務所に入っているだけで自動的に罰が終わる一般の刑罰と異なり、薬物依存の「危険性」が完全になくなるまでは完全なる自由が与えられないというもので、犯罪者にとっては最も酷な罰だ。厳密に言えば「治療」の側面が強い。
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「法律家の感覚はおかしい。中国なら薬物犯罪は即死刑!」
こんな話を夜中に妻にしていたら、妻が「そもそも薬物犯を、執行猶予にしたり、3年ほどで刑務所から出したりすること自体がおかしい」と言ってきた。
「執行猶予や短期間の刑務所入所で社会に出てくることを前提とするから、薬物依存から完全に脱却させないと社会にとって危険だ、となるんちゃうの? そのことで薬物依存からの脱却には社会復帰を促すことが必要だというのはおかしい。それなら初めから執行猶予なんか認めずに、ずっと刑務所に入れておけば社会は安全やんか。社会復帰を促す必要なんてないやんか。中国なんかは薬物犯罪で即死刑になってるやんか」と。
これに対して、僕は「近代国家日本、法治国家日本は、他の犯罪の刑罰とのバランスも考えないとあかんねん。仮に薬物犯罪のすべてを懲役15年・執行猶予なしとしたり、もっと重く全て死刑にしたりしたとして、強盗罪はどうなる? 傷害罪はどうなる? 交通事故で相手の命を奪ったときにはどうなる? 薬物犯罪のみを厳罰にするわけにはいかないやろ。薬物犯罪の全てを死刑になんかしたら、その他の犯罪もほとんどを死刑にしなければあかんやろ」と答えた。
妻は「なんか法律家ぶって。法律家の感覚がおかしいんちゃうの」と、さらにパンチを繰り出してきた。
時計に目をやると、時間は25時をゆうに回っていた。
僕は「こりゃあかん」と思い、「土日、ずっと仕事やったから、もう頭が回らへん。とりあえず寝るわ」と言って電話を切った。
朝の9時頃、携帯が鳴った。妻からだった。
「ところで昨日の話やけど、やっぱりパパの話は、おかしいと思うわ」
第2ラウンドが始まった。
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※本稿は、公式メールマガジン《橋下徹の「問題解決の授業」》vol.176(11月19日配信)を一部抜粋し、加筆修正したものです。もっと読みたい方はメールマガジンで! 今号は《【薬物事件の考え方】僕が沢尻エリカさんの「社会復帰」を望んだ理由》特集です。