さらに、スリランカ同時多発テロ後に、交通機関の混乱だけでなく、非常事態宣言や夜間外出禁止令の発令、インターネットの一時的遮断、宗教対立の激化などが生じたように、テロによって現地邦人の早期帰国や避難、現地での日常生活などに影響が出る、いわゆる“二次的被害”に巻き込まれる場合もある。テロによって身体的な被害を遭う以上に、その後の社会混乱に巻き込まれる可能性の方が、むしろ圧倒的に高いともいえる。
現在、筆者は、アルカイダやイスラム国が実際の組織として以上に、暴力的な過激思想として機能し、その影響や刺激を受ける組織や個人が、依然として世界各地に存在することを危惧している。スリランカの事件も証明するように、ネットなどで拡散する暴力的な過激思想に、誰が影響や刺激を受け、いつどこでそれがテロという形で現れても決して不思議ではない。まさに、デジタルテロの時代における地政学リスクともいえる。
このような状況では、今後も、日系企業や邦人がテロに巻き込まれるリスクがある。いかにそのリスクを回避するかが重要となるが、そもそもテロを事前に予測することは可能なのか。多くの方は不可能だと思うかも知れないが、筆者は完全に不可能だとは考えていない。以下、世の中で発生する暴力別に、その予測可能性について探ってみたい。
予測不可能な犯罪、ほぼ予測可能な国家間戦争
まず、どこの国でも発生するスリや置き引き、強盗や殺人などの犯罪だが、これらはほぼ予測不可能なかたちで発生している。何らかの理由で警察が監視対象にしているような人物による犯罪であれば、警察からの注意喚起などによって発生の恐れは予測できるかも知れないが、軽犯罪を中心にその多くは予測できない。日常的に起こる犯罪の実行犯たちは、事件の事前にマニフェストをネット上に流したり、事件後に犯行声明を出したりすることはほぼない。社会に住む我々も、誰がどんな行動を明日取るかは知りようがない。
一方、現在のアメリカとイランの対立によるホルムズ危機、2017年の北朝鮮危機など、国家間の緊張や衝突、戦争はほぼ事前に予測できる。2017年、トランプ政権と北朝鮮による罵り合いによって緊張が高まった時、日本国内では国民保護や在韓邦人の避難が大きな議論となった。また、ホルムズ危機の高まりによって、国内でも自衛隊が米主導の有志連合に参加するべきかどうか、いかに日本のエネルギー安全保障を守るかなどが、実際に事態が発生するより先に議論されている。
インターネットやSNSの普及、人工衛星の発達などによって、各国がどのようなミサイル開発や軍事実験を行っているかを、事前に察知することは容易になっている。国家間の衝突や戦争という暴力においては、突発的に発生するケースもあるだろうが、その前兆を把握することは難しくない。