組織的テロにはそれなりの前兆がある
では、テロはどれほど予測できるものか。先に結論をいうと、「犯罪以上、戦争以下」ということになる。東京五輪でも懸念されている一匹狼的なテロは、犯罪と同じくほぼ予測不可能だが、組織的なテロについては前兆を把握することは可能だ。これについて、いくつか過去の事例を見ながら、そのとき観察できた前兆を挙げてみたい。
まず、バングラデシュの事例だ。2016年7月のダッカレストラン襲撃テロは日本国内にも大きな衝撃を与えたが、実はその前年から、バングラ国内ではIS関連グループによるテロ事件が連続して発生するなど、ダッカを中心に情勢が急速に悪化していた。
米国務省発表のテロ統計によると、2014年にバングラ国内で発生したテロ事件は124件で、死亡者と負傷者がそれぞれ30人、107人だったが、2015年にはそれぞれ、459件(約4倍)、75人(2倍以上)、691人(約7倍)と大幅に増加していた。メディアでも2015年以降、バングラ国内で発生し、IS関連グループが犯行声明を出す事件がたびたび報道されていた。
また、2019年7月23日、ダッカ市内にある交差点2カ所で爆発物が発見された。その後「イスラム国のベンガル州(IS Bengal affiliate)」を名乗る組織が、警察を狙うためにIS戦闘員が爆発物を備え付けたとする犯行声明を出した。ダッカ市内では、2019年4月下旬にグルスタン地区(Gulistan)で爆弾が爆発して警官3人が負傷し、5月にもマリバグ(Malibagh)地区で警官1人を含む3人が負傷する事件があったが、両事件でもISのベンガル州が犯行声明を出している。
バングラデシュでは、ダッカレストラン襲撃テロ直後から軍・警察による掃討作戦が各地で強化され、関係者100人あまりが殺害、数百人が拘束され、それ以降は、最近までIS関連で目立った活動は報告されていなかった。それがここに来て、警察をターゲットとしたテロが続発しているということになる。
こうした「テロの件数が急増している」「警察を狙ったテロが続発している」という情報を事前に入手しておけば、「欧米諸国の大使館の周辺に長居しない」「軍・警察関連施設などに近づかない」などの工夫をして、テロに巻き込まれるリスクを自ら減らすことはできる。また基本的に、テロリストは自らの政治的目的を達成するため、社会に恐怖心や不安を蔓延させようとするので、犯行予告や犯行声明などを社会に向けて発信する。それらの情報を入手することでも、テロの前兆を把握することはできる。