「反日嫌韓」現象は、敵を間違えたケンカである

「反日嫌韓」の背景として見逃せないのは、(A)政治家のポジショントークと、(B)キュレーションメディアによる憎悪の拡散効果だろう。ポジショントークとは、その人自身の意見に関係なく、立場上いわなければならない発言を指す。横断歩道の信号無視をしていつも妻に叱られる私が、わが子には信号を守れというのと同じである。

どこの国でも政治家は、自分の選挙基盤と内外支持者を意識して、「掲げたい、または言わざるをえない意見」がある。そしてネットを介して、ポジショントークの中でもより過激で扇動的な表現や主張だけが拡散され、社会の分断が助長される現象は、なにも日本に限ったことではない。

特に、歴史に名を残すような政治家のポジショントークは、良くも悪くも計算高く設計されている。たとえばナポレオン三世やムッソリーニが、強硬的外交政策や戦争を推進することで世論の支持を取り付けてきた。

「これ以上あとにひけなくなる前に抑えろ」だの、「もう参院選挙は勝ったのだから」だの、日韓の両政権に対しても、世論の支持を得ることが目的だといわれているが、その立証や是非を問うのが本稿の趣旨ではない。むしろ、「反日嫌韓」にはまる全員が、敵を間違えたケンカをしていると思うので指摘したいのだ。

日本人は縄文人と弥生人の混血

昨今の国家・民族間の軋轢は、遺伝子科学的に俯瞰ふかんすると新たな視座が生まれて興味深い。

縄文人の祖先集団は、一定の時期まで、中国漢民族の祖先と一緒に大陸を移動していたことがわかっている。われわれ現代人が、約2万年ほど前に絶滅し、ホモサピエンスと交流のなかったはずの人類ネアンデルタール人の遺伝子を引き継いでいることも判明している。

日本では、縄文人が暮らしていたところへ朝鮮半島経由で来た弥生人と混血が進んだ。3000年たったいま、本州の人々で縄文人のゲノムを1割、北海道のアイヌの人々で7割、沖縄の人々で3割保有するまでに、縄文人の血は弥生人の血で「薄まって」いる。

筆者自身、朝鮮半島の金海金氏(キメキムシ)という家系だが、約2000年前の私の先祖がめとった相手はインド出身者という説話が、どうやら事実であるらしい。ソウル大学医学部教授がその妃の子孫とされる古墳から遺骨を採取してゲノム解析した結果、インドなど南方系の遺伝子情報を確認できたというのだ。