観光客が来ても「地元の観光振興」にはならない
【カー】この話はまさに、奄美大島の大型クルーズ船問題の根っこにあるものです。これまでに奄美に伝わっていた話では、アメリカの大手クルーズ会社がその筆頭となっていますが、外国籍のクルーズ船で中国人観光客を大量に島に連れてきて、乗客用に作ったショッピングセンターで買い物をさせる。
施設事業者がアメリカや中国系をはじめ、外資系企業なら、利益は日本にではなく、よその国に流れます。乗客はクルーズ船内に泊まり、現地に泊まるわけではありません。そのため迎え入れる寄港地が、観光関連の収入で潤う機会は少ない。むしろ、税金を使って諸設備を整備した分、赤字になる恐れもあります。
【清野】まさにゼロドルツアーと酷似しています。ただ、奄美大島で寄港地建設に賛成している人は、大勢の観光客で土地が賑わうから観光振興になる、という目算を持っていると思いますが。
【カー】大型クルーズ船は、宿泊も食事もエンタテインメントもショッピングも、何もかもその船の中で完結します。もし寄港地に上陸する観光ツアーを組んだとしても、その料金は、基本的に運営企業に行く仕組みになっている。
一般の旅行者の方が、現地にお金を落としてくれる
【カー】アメリカ人ジャーナリストのエリザベス・ベッカーが著した『Overbooked : The Exploding Business of Travel and Tourism』(Simon & Schuster)という本に、大手クルーズ会社のビジネスの仕組みが詳しく描写されています。
著者はこの本で、クルーズ船観光のメッカであるベリーズ(西カリブ海)の観光局が行った調査をもとに、クルーズ船の乗客一人が使うお金と、一般の旅行者が使うお金の内訳を調べています。紙の上での計算では、クルーズ船の乗客が1日に消費する金額は100ドル。一方で、一般の旅行者は96ドル。しかしクルーズ船乗客の場合は、100ドルのうちの56%がクルーズ船に還流します。つまり、寄港地には44ドルしか落ちていません。
対して、一般の旅行者の場合は、現地に数日間滞在するので、宿泊代などを入れると、最終的に653ドルを現地で使います。一度に大量の乗客を送り込んでくる大型クルーズ船が、寄港地にとって、すばらしい消費喚起になるかといえば、実態はそうでもないのです。