「株式投資は危険」のままでは老後は危うい
わが国は、個人の資産形成に向けた教育を強化・充実させなければならない。その出発点は、一人ひとりが自分の生活に必要なお金を把握することだ。
具体的に政府は、小学生や中学生など、若い時から“家計簿”や“小遣い帳”のつけ方に関する教育を行う必要がある。収入と支出のバランスがわかれば、無駄な消費を減らすなどして貯蓄に回るお金を確保できるだろう。国民が収入と支出のバランスを意識するようになることは、株式への投資を行うなど、相応のリスクをとって利得の獲得を目指すために欠かせない。
ただ、わが国では「株式投資は危険」と思い込む人がかなり多い。わが国の個人金融資産は1800兆円を超える。その50%以上が現預金として保有されている。低成長の環境下、預金を増やしても十分な利得を確保することは難しい。
現預金として保有されているお金をうまく生かす=投資して運用の利得を手にすることができれば、老後の生活をより充実したものにできるだろう。その意味で、株式などに投資を行い、資産を運用する意義は高まるだろう。
国全体で投資教育を充実させる必要がある
そのためには、政府が大胆に新しい制度を導入することが大切だ。例えば、NISA(少額投資非課税制度)に損益通算が認められれば、家計には資産運用を行うインセンティブが付与されるだろう。その上で、タイミングと金額を分散して、長期の視点で資産を運用することができるよう、国全体で投資教育を充実させる必要がある。
同時に、政府は国内経済のダイナミズムも引き上げなければならない。企業が新しい発想を実用化して、従来にはないモノを生み出すことができれば、需要は増える。それが経済の成長につながり、所得や株価の上昇を支える。
政府は規制緩和などを通して企業のやる気を引き出しつつ、その恩恵を享受するために個人が株式に投資しやすい環境を目指さなければならない。それが、人生100年時代におけるそれなりの安心感ある生活を支える重要な要素となるだろう。
法政大学大学院 教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。