「大混乱」の理由は抽象的に論じているから

この単独親権か共同親権かの議論が大混乱しているのは、単独親権や共同親権というものが抽象的に論じられているからだ。

まず法律上の親権の中身は

【財産管理権】
(1)包括的な財産の管理権
(2)子どもの法律行為に対する同意権(民法5条)

【身上監護権】
(1) 身分行為の代理権
子どもが身分法上の行為を行うにあたっての親の同意・代理権(同737条、775条、787条、804条)
(2)居所指定権
親が子どもの居所を指定する権利(同821条)
(3)懲戒権
子どもに対して親が懲戒・しつけをする権利(同822条)
(4)職業許可権
子どもが職業を営むにあたって親がその職業を許可する権利(同823条)

というものであって、はっきり言って、一般的に想像する親の権利としては、たいして意味のないものである。普通に親をしていて、この法律上の親権を意識することなど、まずない。

離婚した親で、子供の親権が欲しいと言う者は、上記の中身の親権がどうしても欲しいというよりも、これまでの子供との関係、コミュニケーションをできる限り維持したいと願っているだけである。

そして、子供が成長するにつれて、子供の日常生活において親権者の同意が事実上求められることが多くなってくる。法律上の親権を行使するという大げさなものではないが、実社会が子供のことで親権者に相談、同意を求めてくることが子育て過程において実に多い。

離婚をし、子供と一緒に暮らさないけれども、子育てにおけるそのような関与を持ち続けたいと強く願う親、特に父親が多くなってきた。これはある意味、社会が変化してきたということである。

(略)

単独親権がそのまま受け入れられた時代は、離婚後はお母さんが子供を育て、お父さんは養育費を払い、たまに子供と面会するという形に多くの人が納得していた。もちろんお父さんが子育てする例もあるが、少数であった。しかし、今の時代は、子育てに関与する親の気持ち、特に父親の気持ちが大きく変わり、共同親権の必要性が高まってきた。

単独親権派は、両親のDVの問題を取り上げて共同親権を否定する。確かにそれは問題だが、ではDV問題がない両親の場合にはどうなのか?

木村さんや駒崎さんは、自分の考える問題事例の視点のみで共同親権を否定するが、それはまさに具体的事例の想定、立法事実の検証が弱い。

また共同親権派も、かつてと同じ面会保障という目的だけを主張し続けるから説得力が弱い。

そうじゃない。共同親権の狙いは、お父さんが子育てに積極的に関与したいという社会の変化に対応するものなんだ。そして法律上の親権の内容はたいしたものじゃないが、社会は子供の成長過程において親権者に多くのことを相談し、同意を求める。そこに離婚後のお父さんが関与していきたいと強く願っていることにきっちりと応えようというのが、共同親権の新しい狙いだ。単なる面会保障ではない。共同親権派はここを強く主張しなければならない。