「バラマキ政策」によって人手不足が深刻化

欧州の金融市場ではドイツを中心に各国の長期金利の低下が続いているが、財政悪化が懸念されるイタリアの長期金利だけが独歩高となっている。足元のイタリアの長期金利は2%台半ばに達しており、フランスやスペインよりも高いばかりではなく、あのギリシャの水準に迫る状況だ。

金利の上昇はイタリア景気に悪影響を及ぼしている。筆者は5月中旬にミラノを訪問し有識者にヒアリング調査を行ったが、その際イタリアのあるメガバンクのエコノミストは、コンテ政権によるバラマキ政策やそれを嫌気した長期金利の上昇によって企業経営者のマインドが冷え込み、設備投資が停滞していると指摘した。

そのほかにも、クオータ100の導入で早期退職者が急増した結果、人手不足が深刻化しているという指摘があった。若者の失業が深刻なイタリアであるが、彼らに退職者をカバーできるだけのスキルや経験はない。現政権は反移民を掲げているため、移民労働力に頼ることもできず、人手不足は今後慢性化する恐れがある。

また別のメガバンクのアナリストも、設備投資の足踏みや長期金利の上昇で銀行の収益環境が厳しさを増したと苦言を呈していた。イタリアの企業は銀行への依存度が高いため、銀行の経営不安は景気への強いブレーキになる。家計による需要を重視する一方で企業による供給を軽視した結果、景気に悪影響が生じたわけだ。

EUからのプレッシャーをイタリア政府は無視

バラマキ政策による財政の悪化に歯止めをかけようと、欧州連合(EU)の執行機関である欧州委員会は、イタリア政府に対して「過剰財政赤字手続き(EDP)」と呼ばれる制裁手続き(事態の改善勧告・警告に従わない場合、制裁金が没収される手続き)の発動をチラつかせ、軌道修正を求めてきた。

しかしイタリア政府は、こうした欧州委員会の要請に応じなかった。そこで欧州委員会は6月5日、EDPの手続きを始めるとイタリア政府に勧告した。これを受けてイタリア政府は10日、コンテ首相とM5S党首であるディマイオ副首相、レーガの党首であるサルビーニ副首相兼内相が会見を開き、EDPを回避するための対策に臨むと発表した。