今回の新紙幣の切り替えは用意周到で、財務省が時間をかけて準備してきたことがうかがえる。政権に忖度したり、現職の財務大臣に花を持たせるというより、改元という絶好のタイミングが巡ってきたので発表したということだろう。5年の猶予を設けた理由は、財務省が日本国債の暴落を念頭に置いているからではないか、と私は推測している。

前回04年に紙幣を刷新したときは、90年代後半から世界的な金融危機の流れが日本にも波及していた。国債暴落による日本発の金融危機が懸念されて、財務省は紙幣刷新を利用した対応策を密かに練っていた。いろいろな応用問題があるが、一例としては新紙幣と旧紙幣を交換するときに、旧紙幣で1万円分を入れると8000円分の新紙幣しか戻ってこないような技術をATMメーカーに検討させていたのだ。

日本には50兆円規模のタンス預金(家庭のタンスや金庫で保管している現金)があるといわれている。たとえば「1年後には旧紙幣は使えなくなります。早めに新紙幣に取り替えましょう」とアナウンスすれば、これが炙り出されてくる。

浮き出てきたタンス預金自体に景気浮揚効果があるという指摘もあるが、新紙幣と旧紙幣を交換する際に2~3割をパクる、いわば「徳政令」を実施できれば国家財政としては大いに助かる。

04年の紙幣刷新のときに財務省は国債暴落対策を密かに狙っていた。しかしATMメーカーから設計図面の情報が漏れて、議員からの問い合わせで大騒ぎになり、財務省は断念せざるをえなかった、といわれている。幸い、国債の暴落危機が遠のいて、沙汰止みになったのだ。今の日本国債のデタラメな発行ぶりを考えると、財務省が5年以内の暴落に備えて国民の資産をパクる「徳政令」の準備をしていても不思議ではない。

成熟した日本は、消費税よりストック課税を

金融危機の対応策はもう1つある。国民の金融資産および固定資産に対する課税である。19年10月に消費税が10%に上がるが、今後、消費増税以外に税収を確保する手段は資産課税しか残されていない。

旧紙幣を使えなくして新紙幣に切り替えさせれば、誰がどれくらいの金融資産を持っているか、課税の母数がハッキリする。日本人の個人金融資産は約1800兆円ある。1%課税すれば18兆円。消費税を2%上げてみたところで税収は5兆円程度だから比べものにならない。成長期を終えて成熟期に入った日本では、もはや所得税や法人税といったフロー課税は頭打ち。課税強化は活力を削いで、個人や企業の国外脱出を招くだけだ。日本で増えているのはストックだけなのだから、フロー課税から不動産や金融資産を課税対象にしたストック課税にシフトしていかなければ、財政は立ち行かなくなるのだ。