国民の固定資産と金融資産、企業の固定資産や内部留保などを全部合わせると資産総額は5000兆円を超える。これに一律1%の資産課税をすれば50兆円になる。
さらに付加価値税を導入する。消費に対して課税する消費税ではなく、経済活動に伴って発生する付加価値に対して課税するのだ。すべての流通段階で一律10%の付加価値税を導入すれば、日本のGDPが年間約500兆円だから、50兆円の税収が見込める。
資産税と付加価値税を合わせて100兆円。財務省がこれを狙っているとしても不思議ではない。その代わり法人税、所得税、相続税はもちろん、不動産取得税、自動車重量税、ガソリン税、たばこ税など意味不明な税金はすべて廃止する。資産を持っている人ほど資産税がかかるから、金持ちはどんどんお金を使おうとし、個人消費も活性化する。簡単に言えば、これが私の昔から提案してきた税制改革である。
従って、財務省が金融資産に対する課税を考えているとすれば、私は基本的には賛成だ。5年も猶予を持って新紙幣を発表したのは、世界的な金融危機が国家財政の脆弱な日本を直撃した場合に、極めて短期間で金融資産課税を導入する、という目的が隠されているのだろうと私は推測している。
世界的なキャッシュレス化の流れに逆行している
新紙幣発行は世界的なキャッシュレス化の流れに逆行している、という指摘もある。アジアのキャッシュレス先進国といえば中国。スマートフォン経済に転換して、モバイル決済が普及した中国では、キャッシュレス化が爆発的に進行した。しかし、昨今はキャッシュレス化の弊害も出てきている。中国では顔認証(生体認証)が高度に進んで、スマホすら持たずに「顔パス」でほぼ食事や買い物ができる。ということは個人の持っている資産と顔認証が一致しているということだ。認証データは共産党との共有が義務づけられているから、個人資産からショッピングの内容まですべての個人情報を中国政府が握っているわけだ。
この先、中国はどんどん犯罪がしにくい国になるだろう。常に資産とカネの流れを政府に捕捉されるから、課税逃れもできなくなる。キャッシュレス社会の利便性の背後で、ジョージ・オーウェルの小説『一九八四年』で描かれるような監視管理社会にからめ取られていることを、中国の人々はひしひしと感じていることだろう。
ただし、キャッシュレス化が遅れている日本で、時代錯誤な新紙幣発行にも、金融危機に対処する財務省の魂胆が込められているとすれば、これは国が紙幣を使って財務危機を乗り越える最後のチャンス、ということはよく理解しておいたほうがいいだろう。