新紙幣を早期発表した本当の理由
新元号「令和」の発表からほどなく、5年後の2024年度上期に新紙幣を発行することが麻生太郎財務大臣から発表された。モデルチェンジするのは1万円、5千円、千円札の3種類で、500円硬貨も刷新される。新紙幣の絵柄に描かれる人物は1万円札が渋沢栄一、5千円札が津田梅子、千円札が北里柴三郎になるという。
紙幣の人物像は明治以降の著名な文化人から選ばれるのが通例だが、日本円の象徴である新1万円札の顔に、朽ち果てつつある「日本資本主義の父」といわれる渋沢栄一を選ぶセンスはどうかと思う。21世紀は人材の時代なのだから、「学問のすゝめ」の福沢諭吉先生に3度目の続投をしてもらってもよかった。
それにしても、なぜこのタイミングで紙幣の刷新を発表したのだろうか。
紙幣の大幅なデザイン変更は、ほぼ20年おきに行われてきた。定期的に刷新する基本的な目的は偽造予防。20年も経過すると紙幣が古びてくる一方で、印刷技術などが進化して、偽造リスクが高まる。そこで最新の造幣テクノロジーを詰め込んだ新紙幣に切り替えるのだ。
前回の刷新は04年。前々回は1984年だった。従って次の刷新が24年に行われるのは周期的には妥当といえる。とはいえ、5年後の新紙幣発行をなぜ今の段階で発表したのだろうか。
新紙幣の切り替えにはそれなりの準備が必要だ。一番のネックはATMで、私はATMメーカーのコンサルタントを何十年とやっていたから、その苦労をよく知っている。真贋鑑定をしたり、お札の枚数をきちんと数えたり、2枚重ねで送り出さないようにする技術というのは実は結構難しくて、設計変更および据え付けなどに数年はかかる。そうはいっても04年の刷新では政府がアナウンスしたのは2年前だから、5年の準備期間は長すぎる。
19年4月の統一地方選挙、福岡県知事選で麻生財務大臣が支援していた自民党の推薦候補が敗れた。新紙幣発行の発表がその直後だったことから、麻生氏が失地回復を狙ったという見方もあるようだが、まったくの的外れだと思う。
さらに卑近な目的として囁かれているのが衆参ダブル選挙である。元号が改まり、紙幣の刷新を発表して新しい時代の風を吹かせることで、気分一新、長期政権に対する「倦(う)み」を払拭し、令和最初の国政選挙をダブル選挙にして与党有利な展開に持ち込む。こちらは半分くらい当たっている気がしないでもないが、時の政府や政治家の卑近な都合で財務省という官僚機構はそう易々とは動かない。