財政危機の根本原因は「債務貨幣システム」
不況の時に財政赤字が必然的に増えてしまう根本原因は、近代以降の標準的な通貨制度である「債務貨幣システム」にあります。
おカネを作っているのは、日本銀行というよりも民間銀行です。日本銀行が発行する現金(日本銀行券)は、1000兆円を超える通貨量(マネーストック、M3)のうちの1割未満(100兆円程度)に過ぎません。残りの9割以上は現金ではなく、民間銀行などの預金(帳簿上の数字にすぎない「預金通貨」)です。これが企業や個人によって支払いに使われて「おカネ」として通用しているのです。
ただし、民間銀行は預金者から預かったお金だけを貸し出しているのではありません。銀行は、資金の借り手の預金口座を作ってあげて、そこに金額を書き込むのです。こうして銀行は、預かったおカネの何倍・何十倍ものおカネを「創り出し」て、預金という債務を負うと同時に、企業や個人の生殺与奪を握る債権者となることができるのです(これを信用創造と言います)。
これは望ましい通貨システムとは言えません。好況の時には貸し出しと「預金通貨」が急膨張してバブルの発生が助長されますが、バブルが崩壊すると金融危機が起こります。「大きすぎて潰せない」銀行は政府によって救済され、財政赤字を増やします。また貸し出しが急速に減れば、「おカネ」も減って不況がひどくなります。つまり、バブルも金融危機も財政危機もこの「債務貨幣システム」が大きな原因なのです。
金融界は「信用創造」から莫大な利益と権力を獲得している
銀行には預かった預金の全額を保有させるようにして信用創造をやめさせ、政府がマネーストックの全体を管理するような「公共貨幣システム」にすべきです(参考:山口薫『公共貨幣 政府債務をゼロにする現代版シカゴプラン』東洋経済新報社、2015年)。
でも既存のシステムの中で、信用創造から莫大な利益と権力を獲得している金融界はこれに大反対でしょう。ですから、政府に貨幣発行量の管理を任せることはできない、そんなことをすると必ずハイパーインフレになるという神話は、金融界に有利なのです。
「公共貨幣システム」の実現が当分の間は難しいとすれば、現状の「債務貨幣システム」のもとで、デフレ脱却という課題を抱える私たちに提示された選択肢は、「反緊縮政策によるデフレからの脱却」か、「緊縮策による持続的な不況」の2つに1つです。