無口だったという荒木氏も、「こんな性格じゃなかったと思うくらい、よくしゃべるようになった」。今では自社の運転手に「お客様とは、まず天気のことから話せ」などとアドバイスするまでに変わったという。

「会社の枠組みから一歩離れて、多様な人と出会える場をつくることが大切」だと、荒木氏は強調する。

「個人的に関心のある分野やテーマの勉強会や講習会などに参加してみる。それだけでも、視野が広がっていくはずです」

定年後の仕事を考えるとき、荒木氏は自身の経験から「会社で積んできたキャリアに、あまりこだわらないほうがいい」とも言う。

「転職でも、定年後の再就職でも、多くの方はそれまでのキャリアを生かしたいと考えます。でも、極論すれば会社での実績は、会社の看板があるからできていたにすぎません」

荒木氏が定年後の生活を考え始めた時期は、介護保険制度が施行されて間もないころだ。高齢者対策は、すでに大きな社会課題となっていた。新たなビジネスが生まれてくる分野だろうと荒木氏は予想し、高齢者支援に関係する資格の取得に目を向けた。介護タクシーを始めたときは、「先見の明がある」と人に言われた。

「むしろキャリアにこだわらず、大手の企業が手を出さないような、ニッチな市場を狙って事業を起こすほうが面白いと思いますよ。よほど手持ちのお金がない限り、ローリスク・ローリターンのものが望ましい」

介護タクシーを始めたころ、「ありがとう。またお願いします」「気をつけて帰ってください」と、お客様から感謝やねぎらいの言葉をかけられたときの感激が、今も仕事を続ける強いモチベーションになっているという荒木氏。今、70歳という年齢で仕事を持ち、忙しく働けることに、生きがいを感じている。

▼シニア起業を目指す人の5カ条
●今の職場の枠を離れよう
●情報収集は不可欠
●キャリアにこだわらない
●ローリスク・ローリターン
●ニッチ市場を狙え
開業前後の荒木さん
退職時(56歳)の状況
●妻(共働き)、長男は社会人、次男がこの年に独立
●預貯金2000万円台前半
●都内に持ち家(駐車場付)
初期投資
●250万円(専用車1台)
取得資格
●在職中:大型二種運転免許、シニアライフアドバイザー
●退職後:ホームヘルパー2級、福祉住環境コーディネーター2級
荒木正人(あらき・まさと)
サン・ゴールド介護タクシー代表
1948年生まれ。71年日本大学商学部卒業。自動車販売ディーラーを経て住商情報システム入社。2004年早期退職、06年介護タクシー業を起業。13年サン・ゴールドケアブレーン株式会社設立。
(撮影=永井 浩)
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