国内回帰は「一過性」の変化ではない

わが国企業の海外戦略は、重要な局面を迎えたと考えるべきだ。

労働コスト、生産活動を支えるテクノロジーの両面で国内外の差は縮小している。従来のように海外で生活必需品などの汎用品を生産し、それを世界各国の市場で販売するビジネスモデルの優位性は低下したといってもよい。変化に対応するために、国内に生産拠点を設立し、より付加価値の高い商品を生産して、中国市場などでのシェアを高めようとする企業が増えている。

わが国企業の製造拠点が国内に回帰していることを“一過性”の変化として扱うことは適切ではないように思う。

英国から福岡県へ、日産自動車は新型SUVの生産拠点をシフトする。背景には、英国のEU離脱(ブレグジット)の先行きが読めないことがある。それに加え、日産には、国内で完成品を生産することの意義、優位性を再評価し、それを競争力につなげる考えもあるはずだ。それがなければ、日産は生産拠点を英国以外の海外に移していただろう。

日本企業が世界に情報発信するための条件

今後、求められることは、各企業が“Made in Japan”のブランド価値を高め、世界でシェアを得ることだ。汎用品の分野では、中国や韓国企業の追い上げが熾烈になっている。デジタル家電分野では、中国企業の競争力向上が著しい。ブランド力が問われる高付加価値分野で、ドイツの自動車やフランス、イタリアの高級ブランドなどに対抗していかなければならない。

そのために、より良い品質をもつ製品を生み出さなければならない。不適切な検査実態や管理データの改ざんなどは許されない。それは、“Made in Japan”のブランド価値を失墜させる。

より重要なことは、蓄積してきた技術力を発揮しつつ、最先端のテクノロジーやデザインを実装した、新しい商品を生み出していくことだ。それは、わが国の企業が自力で“ヒット商品”を創造し、新しい市場を手に入れることと言い換えてよい。かつて世界のポータブル音楽再生機市場を席巻したソニーの“ウォークマン”は、そのよい例だ。

足元、電気自動車、自動運転技術など、今後の世界経済を支えるとの期待を集める新しい商品・テクノロジーの開発が急速に進んでいる。そうした分野で、実用に耐えうる製品を生み出し、世界に向かって情報を発信できれば良い。それは、国内で生産活動や研究・開発(R&D)を行う意義を実感する企業の増加につながり、日本経済のダイナミズムを引き出すことにつながるだろう。

(写真=時事通信フォト)
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