負の製品である油粕から生み出された新製品

その原資を用いて取り組んでもらいたい活動の一つに、ISO14000シリーズのファミリーの一員であるマテリアルフローコスト会計(ISO14051)がある。マテリアルフローコスト会計は、製品製造工程に生じるロスに注目し、製品とともに生み出される廃棄物(これを「負の製品」と呼ぶ)のコスト(材料費、加工費、設備償却費など)を明確に認識する原価計算手法である。廃棄物の経済的価値を測定することは、思いのほか重要である。

京都にある山田製油は、一番搾りにこだわるごま油を製造販売している。絞ったあとの油には、30%以上油分が残存しているにもかかわらず、それを茶畑用肥料や家畜用飼料として販売していた。しかし、マテリアルフローコスト会計を導入し、負の製品である油粕の原価を算定したところ、その原価は、肥料・飼料売価の5倍にもなることが判明した。そのことを契機に、油粕を用いた新製品開発に取り組むことになり、数種の製品を上市することに成功したのである。

かつては廃棄処分にしていた油粕から生まれた新製品(写真提供・山田製油)

このように、マテリアルフローコスト会計を導入し、「正の製品」のみならず「負の製品」の原価を計算することで、「負の製品」による環境負荷を測定することが可能になる。そして、その測定結果に基づいたさまざまな改善活動への取り組みが推進される結果、環境配慮とコスト低減が両立する方策を見出すことができるのである。

山田製油の場合は、環境配慮への取り組みに成功し、肥料・飼料として販売されない油粕は廃棄処分としていたが、それを活かした新製品を開発し、これら製品の売り上げが伸びたことによって、会社への利益貢献をもひきだすことができたのである。そして、いまや、これら新製品が「正の製品」、一番搾りのごま油が副産品と、立場が逆転するような状況となっている。

企業は、地球環境に生かされているということがわかれば、環境配慮にも真剣に取り組みようになるだろう。そして、このような企業が増加することこそが、地球環境の改善につながるのである。環境への取り組みを、単にCSR(Corporate Social Responsibility)の一環としてとらえるだけでは十分ではない。マテリアルフローコスト会計の導入には、それほど大きな投資を必要としない。環境配慮とともに企業の収益性を向上させるための糸口を見つけることが可能なのである。

加登 豊(かと・ゆたか)
同志社大学大学院ビジネス研究科教授
神戸大学名誉教授、博士(経営学)。1953年8月兵庫県生まれ、78年神戸大学大学院経営学研究科博士課程前期課程修了(経営学修士)、99年神戸大学大学院経営学研究科教授、2008年同大学院経営学研究科研究科長(経営学部長)を経て12年から現職。専門は管理会計、コストマネジメント、管理システム。ノースカロライナ大学、コロラド大学、オックスフォード大学など海外の多くの大学にて客員研究員として研究に従事。
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