論文の結果を素直に受け取ると、選挙のように日程が決まっている場合、事実が拡散する前にウソを充分拡散させ選挙結果に影響を与えることが可能だ。フェイクニュースに対して、事実検証と拡散に時間がかかり伝播範囲も限定的なファクトチェックは全く無力となる。最悪、選挙が終わってから「ウソでした」とわかる。つまり、日程の決まっているイベントに対してフェイクニュースを計画的に流布させた場合、少なくとも事実を知らせることは対抗手段にならない。必要なことだと思うが、解決にはなんの役にも立たない。そして、世の中のほとんどのことは日程が決まっている。特に政治はそうだ。

ファクトチェック組織への信用も揺らいでいく

フランス政府機関の『情報操作 デモクラシーへの挑戦(INFORMATION MANIPULATION A Challenge for Our Democracies)』(2018年8月)によれば、ファクトチェックでは、すでにある信念に反していると逆効果になる場合があること、読まれないことも多いこと、ファクトチェックが市場になりつつあり商業目的のものが出てきていることなどの問題があげられている。

問題の中には、ロシアのプロパガンダメディアであるRTがファクトチェックプログラムを開始したことも取り上げられており、こうしたファクトチェック組織が増えるとどこを信用してよいのかわからなくなる。結論として、ファクトチェックは必要だが、それだけでは有効な対策とはならないため補完するものと組み合わせなければならないとしている。

一田和樹(いちだ・かずき)
東京生まれ。経営コンサルタント会社社長、IT企業の常務取締役などを歴任後、2006年に退任。09年1月より小説の執筆を始める。10年、長編サイバーセキュリティミステリ「檻の中の少女」で島田荘司選第3回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞を受賞し、デビュー。サイバーミステリを中心に執筆。
(写真=iStock.com)
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