ファクトチェックは決め手にはならない
『自律航法 フェイクニュース後のコンテンツナビゲーションのあり方』レポートは最終的には前向きな結論を導いているものの、当面はかなり厳しい局面が続くと指摘していた。さらに悲観的になりそうな論文がその後発表された。
MITメディアラボがツイッター社の協力を得て、過去の全てのツイートを対象(アカウントが停止、削除されたツイート、削除されたツイートなどを含む全量)に調査した結果だ。『事実報道とフェイクニュースの拡散(The spread of true and false news online)』(2018年3月9日、Soroush Vosoughi, Deb Roy, Sinan Aral, Massachusetts Institute of Technology(MIT), the Media Lab)では、ウソと真実の情報の伝播速度や範囲などが比較研究されている。
この研究では、6つのファクトチェックサイトで真偽判定を受けた事実とウソの情報をピックアップし、それぞれがどのように拡散していったかを比較している。
「驚き」と「嫌悪」を誘発するウソが拡散
「ウソは事実よりも速く広く拡散する」という結果は、一部では衝撃的に受け止められた。これまで何度も「フェイクニュースに比べて、その検証記事は10分の1程度しか拡散されない」といった話は経験則として語られてきた。それがデータによって現実はさらにひどいことが確認された。事実が伝播するのは1000人程度であるのに比べ、ウソは多い時は10万人まで拡散する。拡散力において100倍、拡散速度は20倍である。もっともよく取り上げられるテーマは政治でずば抜けて多く、その伝播速度も速い。
拡散しやすいウソに対する感情は、「驚き」と「嫌悪」が多い。論文では「それまで知らなかった新しいことについてのウソに反応しやすい」としている。しかし単純に、ネット上でヘイトスピーチを繰り返す人々を見る限り、「それまで知らなかった新しいこと」よりは、単純に既知の憎悪の対象に対する新しい嫌悪感をもよおすウソに反応しているように思える。このへんの解釈はバリエーションがありそうだ。
この調査ではボットの与える影響については否定的で、インフルエンサーの影響も認められなかったとしている。普通の人が拡散していることになるが、トロールやサイボーグが使われている可能性は残る。サイボーグとはシステムの支援によって高速、効率的に人間が運用しているアカウントである。