日韓関係の“安楽死”シナリオ
それではこのような状況にある日韓関係は今後どう展開していくのだろうか。そのシナリオは大きく二つ考えられる。第一は、拡大する乖離が両国間の決定的な対立を導き、何かしらの紛争へと発展していくシナリオである。それは例えば領土を巡る紛争であるかもしれないし、また、民間企業をも巻き込んだ歴史認識問題を巡る紛争であるかもしれない。
とはいえ、このシナリオが現実になるには一つ前提が必要になる。大規模な紛争が起こるには両国にとってその問題が死活的に重要である必要があり、その背後には世論の真摯な関心がなければならない。
しかしながら、現実の日韓関係、とりわけ韓国側の状況を見る限り、そこに日韓間に横たわる何かしらを大きく重要視し、力をもってこれを解決しようとするエネルギーは存在しない。昨年の大統領選挙において慰安婦問題を含む日韓関係がほとんど争点にならなかったことに表れているように、今日における韓国での日本への関心はかつてとは比べ物にならないくらい低下しているからである。
だとすれば、考えられるのは第二のシナリオである。日韓両国間の歴史認識や安全保障を巡る乖離は今後も拡大し、両国世論はそれに不満を募らせることとなる。
しかしながら、日韓関係が重要視されない状況では、これを解決しようとする真摯な努力がなされる可能性は少なく、両国は不満を抱えながらもこれを放置することとなる。結果として、やがて相互の関係は縮小に向かい、世論にはあきらめに近い感情だけが拡大する。
結果として訪れるのは、日韓関係の「安楽死」に近い状況である。それが果たして我々にとって望ましい結末なのか。この問題について考え直すなら、今が最後のチャンスなのかもしれない。
神戸大学大学院 国際協力研究科 教授
1966年、大阪府生まれ。92年京都大学大学院法学研究科修士課程修了。専門は比較政治学、朝鮮半島地域研究。著書に『日韓歴史認識問題とは何か』(ミネルヴァ書房)など。