店員がタメ口でおじさんを注意

「モツ焼き店」に戻りましょう。

ふと、私の横に、推定年齢50代くらいの、「おひとりさま」のおじさんが座りました。

本間 立平(著)『電通さん、タイヤ売りたいので雪降らせてよ。』(大和書房)

きょろきょろと店内を見回したり、メニューを探したりする様子から察するに、おそらくこの店は初めてのようです。お店のルールがわからなかったのでしょう。そのおじさんは、大きな声で、「カシラを2本ください!」と、赤字の札を注文してしまいました。すると、

「それは売り切れだよ。黒字のやつから頼んで」

と、30代前半くらいであろうお兄さんの店員が、思いっきり「タメ口」で、注文方法を修正しました。

「あ……、なるほどです」おじさんはすぐに、このお店の「品切れ表示システム」を理解したようです。黒字の札から、食べたいものを探し始めました。しかし、おじさんは再び、軽率な発言をしてしまいます。

「じゃあ、ハツをください。塩でお願いします」

食べログで「接客に難あり」の理由

私も若いころはよくやってしまいました。このモツ焼き店に限らないのですが、飲食店に一見で入る際には、「郷に入っては郷に従え」の心構えでいることが重要です。お店から聞かれてもいないのに、味や調理方法などに注文をつけるのは、非常に危険な行為です。

焼肉店での「タレか塩」。ラーメン店での「ニンニクの有無」……。これらはすべて、聞かれてから答えるのが、「一見の作法」です。なぜなら、お店が「一番おいしい状態にして出す」ことを決めている場合があるからです。そして、このモツ焼き店も客側からの味の指定は一切受け付けていません。味付けにタレも塩もなく、モツのパフォーマンスを最大化する「ベストな味付け」があるだけです。

「あ、味は、こっちでやるんで」

またもや、「タメ口」がおじさんに突き刺さります。

実はこの店、「食べログ」で味が高く評価されている一方、「接客に難あり」と言われています。特にこの「タメ口」に対する悪評が後を絶ちません。下町のモツ焼き店などではタメ口でないことのほうが珍しいのですが、普段はこういった店に来ない人だと、「は? 何で客に対してタメ口なわけ?」と不満を抱くのも無理はないでしょう。