“夢”があるからカゴを付けない

「なるほど、この店にも、何か思うところがあるのだろう」とその日はカゴを諦めて帰りました。後日、何気なく、その店のホームページを見たとき、店員が、「頑にカゴを付けなかった理由」が判明したのです。そこには、その自転車専門店の「企業理念」が書かれていました。

弊社の目標は、「使い捨て感覚のママチャリで溢れ返っている街を、皆様に愛着を持ってご利用いただける機能性やデザイン性の高いこだわりの自転車で一杯にする」ということ!

客の要望通りにカゴを付ければ、間違いなく売り上げが上がります。それでも付けないのは、「かっこいい自転車で溢れる街が見たい」という、この店の“夢”があるからだったのです。その上で、「あなたが選んだその自転車は、カゴを付けるような自転車ではない」ということを、私に「指導」してきたのです。

「商売のための商売」にファンはつかない

「(儲かるから)店舗を拡大しました」「(流行っているから)始めました」そんな商売のための商売では、お店にファンはつきません。どれだけ商品に思いを込めているのか。大げさに言えば、その仕事を通じて、社会にどういった変化をもたらしたいのか。これからは、そんな理念があるお店が受け入れられていくでしょう。

「こだわり」を伝えたいからルールがある。ときには客を叱咤する。わからない人には、客になってもらわなくても構わない。「指導」は売り手の熱意を伝え、買い手の共感を獲得します。客に従う時代から、客に従わせる時代へ。「指導」が効果を発揮する場面は、これからも増えていくでしょう。

本間 立平(ほんま・たつへい)
ショッパー・サイコロジスト
「買う瞬間」を科学的に捉えるショッパーマーケティグに従事。プロモーションの成否は、「買い手のインサイト(本音)の把握」にあるとして、「購買心理学」の重要性を提唱している。購買行動観察、ヒアリング、過去の勝ちパターンの分析に、行動経済学、心理学、脳科学などのセオリーを統合し、「買わせるメソッド」を確立。電通グループの「購買起点型マーケティング」の実行集団、「電通S.P.A.T.チーム」の創設メンバー。所属は電通テック。店頭購買行動モデル「ARCAS」の開発者。
(写真=iStock.com)
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