親をスムーズに病院や施設に連れて行くには

地域包括支援センターへの相談にこぎつけたら、次なるステップは「要介護認定の申請」と「もの忘れ外来」の受診である。

40歳からが対象になる介護保険は、本人または家族による申請が必須。ある年齢になったから、あるいは介護が必要になったからといって自動的に利用できるわけではない点に注意したい。

要介護認定の申請にあたっては、要介護認定の意見書を書いてもらう主治医を決める必要がある。必ずしももの忘れ外来の医師である必要はなく、皮膚科や整形外科など行きつけのクリニックの医師にお願いする選択肢もある。

「認知症は早期発見・早期治療が望ましい。適切な治療をすれば、進行をゆるやかにすることができますし、認知症の種類によっては症状が軽くなることもある。認知症の疑いがある場合はできるだけ早い段階で専門医を受診するのがベストです」

だが、当の親が「要介護認定など受けたくない」「もの忘れ外来になど行かない」と拒否する場合も多いのが現実。親が嫌がった場合はどのように説得すればいいのか。

「まず、自分たちで説得しようという考えは捨ててください。これは要介護認定の調査やもの忘れ外来受診に限らず、介護全般に言えますが、親子間で話し合って解決しようとすると、たいてい『行く』『行かない』の口論になり、もめ事に発展します」

親を思えばこそ、言葉も態度もきつくなる。しかし、強行突破しようとすれば、親のプライドを傷つけ、態度を硬化させる。親子の信頼関係にもヒビが入りかねないと、川内氏は警告する。

「さらに認知症の場合、記憶が失われやすくなる半面、感情にひもづいた記憶は残りやすい点にも留意しなければなりません。よかれと思って言ったことが原因で『何だかよくわからないけれど、いつもイヤなことを強制しようとする人』と親が認識、記憶する可能性もある。1度定着した記憶はなかなか覆すのが難しく、今後の介護にも支障をきたすリスクが高まります」

介護の現場でも同じようなことが起こりうる。「このスタッフはいつもイヤなことをする」と認知されると、スムーズに介護ができなくなる場合も。そのため、ネガティブなイメージが定着しないよう、工夫しているとか。

「ご家族は介護サービスの利用を希望されているけれど、ご本人は嫌がっていて、怒りの気持ちを抱かれていることも珍しくありません。そんなときは、なるべく担当職員を代えて、ネガティブな印象が定着しないようにします。同時に、楽しい話題や体験を提供することを心がけています。“この人といると楽しい”という記憶が定着すると、ニコニコと笑顔で介護を受け入れてくださるようになる。その意味でも、家族が“怒っている人”にならないことは非常に重要です」