それが、「運動会で転んでしまう子ども」でした。ここから生み出されたのが、運動会で転ばずに走れる、という極めてわかりやすいコンセプトだったのです。

「子どもに向けた面白い靴」と「運動会で転ばずに走れる靴」と。さて、どちらがイメージがわく企画でしょうか。子どもたちに支持される企画でしょうか。

子どもに向けた面白い靴
  
運動会で転ばずに走れる靴

企画の背景には、開発チームのまとめ役になった人物の仕事スタイルがありました。会社の同僚から「お前はどこから給料をもらっているのか」と揶揄(やゆ)されるほど、取引先に尽くす営業で、小売りの最前線の厳しさを肌で学んでいました。

今、売れている商品はこれからの死に筋、と取引先には教わったそうです。常にユーザーである子どもたちの変化に目を向けないといけない、と。

あなたはその「面白い」を説明できますか?

そこで彼が続けたのが、子どもたちの靴の写真を撮り続けることでした。徹底的な子ども目線を持っていたのです。そして、自分の子どもが小学生になったとき、運動会という場に出会います。

上阪徹『企画書は10分で書きなさい』(方丈社)

その後、企画会議で偶然、運動会が話題になります。自分の子どもの運動会経験もそうですが、誰もが運動会を経験しています。「自分目線」が一気に活かせた。そこから、転ばない、コーナーで滑らない、というキーワードが出てきたのです。

実は「瞬足」は前代未聞の靴でした。裏面が左右非対称になっているのです。だから、コーナーで滑らない。これは、誰もが腑(ふ)に落ちた企画だったといいます。競合他社とも明確に差別化できました。漠然と速く走る、といったものではなく、子どもの気持ちに寄り添ったシューズにできたのです。

過去の、あるいは家族としての「自分目線」に落とし込み、自分が受益者だったとしたら、という想像を働かせることができたからこその大ヒット企画でした。自分が過去に経験した「自分目線」なら、他の意見や考え方に下手に惑わされることもありません。また、経験に基づいて「面白い」を説明できる。

「面白い」は誰もが日常的に使っている、ごく当たり前の言葉です。何気なく使ってしまう言葉。しかし、こういう言葉にこそ、気を付けなければなりません。「面白い」とは何なのかを知ることで、企画はグッと考えやすくなるのです。

上阪徹(うえさか・とおる)
ブックライター。1966年兵庫県生まれ。早稲田大学商学部卒。ワールド、リクルート・グループなどを経て、94年よりフリーランスとして独立。経営、金融、ベンチャー、就職などをテーマに雑誌や書籍、webメディアなどで幅広く執筆やインタビューを手がける。これまでの取材人数は3000人超。著書に『ビジネスにうまい文章はいらない』(大和書房)、『書いて生きていく プロ文章論』(ミシマ社)、『JALの心づかい』(河出書房新社)、『10倍速く書ける 超スピード文章術』(ダイヤモンド社)他多数。
(写真=iStock.com)
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