上下の関係性のみで相手を値踏みする愚かさ

立場が下の人間は、上の人間から理不尽な物言いをされたり、無理難題を押し付けられたりしがちである。それは上司と部下の関係、発注主と下請けの関係においてもしかりだ。いわゆる“上下関係”というヤツである。

しかし世間には、「相手の都合を最優先にし、大金を払ってでも仕事を頼みたい」という人物も存在している。それは業界の大御所だったり、芸能人や著名なスポーツ選手だったり、「先生」的な人だったりする。こうした人に対しては、自分のほうが年上であるとか、お金を払っている側だとしても「お仕事をお願いさせていただいた」的に、丁寧に接しがちだ。つまり、無意識のうちに相手が自分より「上」だとラベルを貼るのである。

そして、こうした実力者が自分に対して「敬語」「さん付け」「丁寧な口調」で接してくれたりすると、勝手に「○○さんは実力があるのに(有名人なのに、大金持ちなのに……)いい人!」と、自分のなかでの好感度を爆上げする。

このような現象から透けて見えるのは、人間関係を「自分より上か、下か」で判断し、態度を使い分けるような、性根のさもしさだ。

無意味なマウンティング

威圧的な口調や、呼び捨てというものは、基本的には「オレのほうがお前よりエラい」というマウンティングの表れだ。戦国時代じゃないのだから、いちいち誰かを屈服させる必要もないというのに、無駄に自分のほうがエラいと見せようとする人が多過ぎる。あるいは、若者に対して丁寧な言葉づかいや敬称を使うことを屈辱だと捉えるような、奇妙な信仰でもあるのだろうか。

「自分のほうがエラい」とアピールしたからといって、仕事がうまく進むわけでもない。たしかに下請けは発注主に対して、カネをもらう身として時にペコペコすることもある。だからといって、カネを渡す側が「自分のほうが上」だとエラそうに接するのは大間違いだ。

発注側はより大きな利益を得るために、下請けの力を「お借り」して商品やサービスを完成させるのである。本来の考え方としては「一緒に価値を生み出すパートナー」なのだ。こうした原則をきちんと理解していれば、どちらの立場が上か下かなどと考えるまでもなく、誰に対しても「敬語」「さん付け」が自然に実践できることだろう。