「無様でみっともないが、これなくしては生きられない」

レース中の彼は半泣き状態で、偏執的な神経症に陥り、足元の道路のひび割れにさえ何か意味が隠されていると思い込む。ふいに自転車を投げだしたかと思うと、血走ったまなこで拳を振りかざし、スタッフが乗る後続車に向かってくることもしばしばだ(賢明にもスタッフはドアをロックしている)。郵便ポストを相手に殴りかかったこともある。幻覚に襲われるのはしょっちゅうで、あるときは武装したイスラム戦士の一団に追われ続けていた。そんなロビックの行動を見るに堪えず、レースに同行していた当時の妻はチームのトレーラーに閉じこもっていたという。

コイルによれば、ロビックは自身の狂気について、「無様でみっともないが、これなくしては生きられない」と思っていた。興味深いことに、ロビックに見られるような狂気は、ときに運動選手にとって強力な武器になることが知られている。遡れば1800年代にすでにフィリップ・ティシやオーガスト・ビールといった科学者は、精神が病んでいる者は痛みをものともせず、人体のリミッターを越えた驚異的な力を発揮できると述べている。

読者の場合はわからないが、少なくとも私の高校の教師は、そんなことは教えてくれなかった。ときには幻覚や郵便ポストとの格闘や錯乱状態が世界的栄誉を勝ち取るのに役立つなんてことは。ただ宿題をちゃんとやり、規則を守り、いつも良い子でいなさいと言われただけだ。

実社会で成功を生みだす要素はなにか

ここで心からの疑問が湧いてくる。

本当のところ、実社会で成功を生みだす要素はいったい何なのか。

それを掘り下げるのが本書だ。成功とは、たんに財を成すだけでなく、人生全般での成功、幸福を意味する。仕事での成功であれ、個人的な目標であれ、それらを成し遂げる鍵になるのは、どんな態度や行動なのか。

巷には、成功の一面だけを取りあげた本、あるいは実践的アドバイスなしに昨今の成功理論だけ紹介した本が溢れている。本書では、まず実際に使える理論を見きわめ、次に、あなたが目指すところに行くための具体的な方策を学ぶ。

何をもって成功と定義するかはあなた次第だ。それはすなわち、あなたが仕事や家庭で幸せになるために個人的に必要とするものだ。だからといって、成功の法則はまったくの気まぐれで決まるものでもない。あなたはすでに、成功するための戦略として最も効果がありそうなもの(着実な努力)と、まったく効果がなさそうなもの(毎日昼まで寝ている)を知っている。しかし、問題はこの2つのあいだに位置する膨大な選択肢だ。

大成功する人と一般の人を分けている科学的背景

すでにあなたは、これまでの実体験や知り合いの話、書籍、ウェブ記事で、成功を目指すうえで役に立つ資質や戦術について多くを学んできたかもしれない。ところが、真に確証が得られたものは一つもない。逆に、役立たないとして除外すべきものはたくさんある。私が本書で探究したいのはまさにそのあたりだ。

過去8年にわたり、私は自分のブログ“Barking Up The Wrong Tree”で、人生で成功する秘訣に関するさまざまな調査や研究結果を分析し、専門家へのインタビューを重ねてきた。そして数々の答えを見いだしてきた。その多くは驚くべきもので、なかには世間の常識を真っ向から覆すものもあった。だがそのすべてが、仕事や個人的目標で抜きんでるためにすべきことについて、貴重な洞察を与えてくれた。