最大年間販売数2700万個の大ヒット商品「パステルなめらかプリン」の生みの親、所浩史さんは現在、岐阜市に住み「ご当地プリン」の開発を指南している。30年以上、愚直に真面目にプリンを突き詰めてきた所さんは「私が大事にしたいのは『一つひとつの仕事に心を込める』という誠意。毎日500個プリンを作ったとして、1個が『500分の1』ではいけない。お客さまにとって1個がすべてであり、『1分の1』なのです」という――。

※本稿は、所浩史『とことん、「一点だけ」で突き抜ける』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)の一部を再編集したものです。

プリン
撮影=プレジデントオンライン編集部

「人生で最後のプリン」…その笑顔にかかわれた幸せ

自分の手がけた仕事が、誰かの人生を祝福する門出に立ち会うだけでなく、悲しいお別れに立ち会うこともあります。悲しみや痛みを、少しでも和らげる存在になれたら。そんな気持ちで私はプリンを作ってきました。

「羽田空港の構内で、パステルのなめらかプリンは買えますか?」

電話でそんな問い合わせをしてくださったのは、東京で暮らす女性でした。がんを患い、四国で療養中のお父さまをお見舞いに行く際に、お父さまの好物であるプリンを買っていきたいというご要望でした。

幸い、羽田空港にはパステルの店舗があったのでご案内し、無事にプリンを買うことができたと、後日わざわざお手紙をいただきました。お手紙には、こう綴られていました。

「末期がんが進行し、父はほとんど何も食べられなくなっていました。それでも、『なめらかプリン』だけは喉を通り、食べることができました。『おいしい』ととてもうれしそうに、食べてくれました。それが父の最後の笑顔になりました。ありがとうございました」

噛まずに飲み込めて、かつ滋養もあるプリンは、病と闘う人にとって「最後の食の楽しみ」となるケースが少なからずあるようです。岐阜にプルシック(2010年に著者が岐阜市にオープンしたお菓子店)を構えてからも、近くの病院からわざわざお礼を伝えに来てくださる方が何人もいたのです。

なかには、「今日、明日までの命かと医師からは言われていたのに、1週間生き延びました」とおっしゃった方もいました。やはり、口から食べ物を入れて消化することが体に与えるパワーというのは、私たちの想像以上のものなのかもしれません。