ある意味で『深センに学ぶ』は、簡潔ながらいささかディープでもある。もう少し軽いレベルでの深センモノ作りに触れたい読者は、同じシリーズの高須正和編著『メイカーズのエコシステム』を見てほしい。

ディスクロージャーしておくと、この本にはこの山形も、歳寄りとして深センの歴史解説を寄稿しているけれど、本書はまだ本格的な製造には至らないながらも、ホビーレベルで深センを訪れた人々が何を感じたか、そこにどんな可能性を見いだしているかについて述べている。深センを(多くの人は初めて)訪れた際の素直な驚きと、まだ量産には至らないながらもさまざまなモノ作り活動を行うにあたり、深センのエコシステムがいかに活用できそうかについての実に多様な考察を行っている。

日本製造業復活の最後のチャンス

それはまさに、メイカーズ運動(編集部注:オンラインコミュニティや3Dプリンターなどのデジタル・テクノロジーの力を借りて、個人や小集団が主役となる新しいモノ作りの動き)のメッカとしての深センを扱ったものだ。藤岡の本にもある通り、このメイカーズ運動はひょっとすると、過去20年以上にわたり景気停滞に見舞われ、それに対応するために内にこもった縮小(そして時に偽装)に頼ってきた日本製造業復活の最後のチャンスかもしれない。

なるべく多くの人が、この藤岡なり高須なりの本を手に取り(というか、いずれもAmazon Kindleの電子本が基本で、手に取れる物理的な書籍はオンデマンド刊行だ)、いま生まれつつある新しいモノ作りの仕組みに自ら触れ、活用しようという気概と希望を抱いてほしい。

山形浩生(やまがた・ひろお)
評論家、翻訳家。1964年生まれ、マサチューセッツ工科大学修士課程修了。大手シンクタンクで地域開発や政府開発援助(ODA)関連調査を手がけるかたわら、経済、文学、コンピュータなど幅広い分野で翻訳・執筆を手がける。著書に『新教養主義宣言』、訳書にポール・クルーグマン『クルーグマン教授の経済入門』、トマ・ピケティ『21世紀の資本』、フィリップ・K・ディック『ヴァリス』など多数。
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