明文化されたルールとして、各国のプロリーグでは「野球規則」が設定されている。だが、メジャーリーグでは明文化されたルールと同じぐらい、いや時にはそれ以上に重要で厳格な暗黙の約束がある。それが「アンリトゥン・ルール」(不文律)だ。これを無視したプレーは絶対に許されず、破った場合は死球を食らうことになる。
アンリトゥン・ルールの代表的なものとしては、以下のようなものがある。
・本塁打を打ったときに大げさに喜んだり、立ち止まって打球の行方を追ったりしてはいけない
・大差がついた試合では盗塁やバントをしてはいけない
・ノーヒットノーランが継続している間はセーフティバントを試みてはいけない
・2アウトで三盗してはいけない
こうした不文律は、アメリカにおける野球の長い歴史を経て形成されていったものだ。その根底には「すでに勝負が決まった試合で必要以上に相手をおとしめない」「礼を失した行為を許さない」という思想がある。
「報復」もアンリトゥン・ルールの内
そんなアンリトゥン・ルールの中のひとつに、「報復」、つまり「やられたらやり返す」というものがある。もしチームの誰かが死球を受けた場合、チームメイトの投手は相手投手本人(投手が打席に立たないDH制の場合は別の選手)に死球を当て返さなければいけない。その死球に納得がいかない場合はさらに「報復への報復」として、死球を当てかえすケースもよく見られる。そのため冒頭の試合のように、1試合で何回も乱闘騒ぎが起こることになる。「この選手が憎いから当て返してやろう」というような個人的な恨みではなく、暗黙の了解として、チームの方針に従って「やらなければいけない」のだ。
松坂大輔投手がレッドソックスに移籍した07年の最初のシーズンに、ヤンキースのアレックス・ロドリゲス選手に死球を与えてしまい、帽子をとって謝ったのが現地でニュースになったことがあった。日本では「当ててしまってすみません」という意味で投手が帽子をとるのは普通の行為だ。しかしメジャーリーグでは死球を当てて謝罪するのは自分の非を認めしまうことになり、ほとんどありえない行為とみなされる。