すこぶる評判の悪い目標管理システム
しかしながら、目標管理システムの評判はすこぶる悪い。部下たちは、「目標設定に自分の意見が反映されていない」「やらされ感がある」「人事評価は、成果とは関係なくすでに事前に決まっている」「上司から、自分たちの成長への配慮はなく、目標必達と強調するばかりだ」と思っている。
上司からは、「部下一人一人との面談に多くの時間を割く必要があり、仕事が滞る」「部下の視野が狭く、上司の私が提案した目標案の意味がなかなか理解されない」「事後に行う評価作業が極めて煩雑である」という声が多い。その結果、人事評価に関する不満が組織に蔓延し、能力開発が一向に進まず、目標も未達に終わることが多い。期待される成果が上がらないばかりか、組織を疲弊させている。これが、目標管理システムの現状なのである。
大きな期待が寄せられ、間違いなく機能すると考えて導入された目標管理システム。それが、なぜ、これほどまでに評判が悪く、成果を生まないのだろうか。その理由は実に多様であるが、最も致命的なのは、目標管理システムを人事評価制度として導入・運用していることにある。目標管理システムは、上司と部下との間で目標のベクトルをそろえ、組織目標を達成するための手段として考案されたにもかかわらず、いつの間にか目標管理の視点は忘れられ、ノルマ管理の道具になってしまった。その一方で、人事考課・人事評価面が必要以上に強調されてしまったのだ。1990年代に多くの企業が目標管理システムを導入したと言ったが、それは、給与支払総額を圧縮することを実は目的としていた成果主義を導入する時の「添え物」であったにすぎない。
目標設定プロセスでは、上司と部下との間のコミュニケーションが不可欠である。対話を通じて部下の行動や思考回路、さらには、目標設定に関する取り組み姿勢などを理解できるので、それらを踏まえて、部下の育成に役立てることができ、また、業績(仕事の結果)も含めた人物評価を適切に実施できると考えたのであろう。
しかし実際には、目標の達成を目指すことよりも、目標達成に関わる人の評価にシステムの重点が移行してしまった。一部の思慮深い上司が運用する場合をのぞいて、目標管理システムは部下の能力開発についても、機能不全を起こしている。目標管理システムに関する不平・不満は、目標の設定にあたって部下の意見が尊重されていない、上司による期間中のプロセスへの関与が不十分で、目標が達成されたかどうかだけが問われていることに起因している。目標達成は声高に叫ばれるが、本来、目標管理システムを機能させるために不可欠な上司・部下の濃密なコミュニケーションや、両者が納得の上で合意する目標を設定する時間が決定的に不足しているのである。
多くの企業の目標管理システムでは、目標は達成されず、目標(ノルマ)達成に部下が追われるため能力開発は進まず、定性的な目標が業績目標とともに目標に組み込まれる結果、人事評価も上司による極めて主観的なものとなっている。これがまた部下の不満を増幅させているのである。レビュー面談において、「しっかりと最後までやりきります」「粉骨砕身努力します」「全身全霊をかけて業務に取り組みます」という言葉を聞くことが多いだろう。でも、これらの言葉から成果が得られることはない。