▼現場編 9割は限りなくグレー。定時上がり、共働きの選択も
急成長の企業に人事職でキャリア採用。だが入社後は店舗配属が慣例で、毎日深夜残業
地味ホワイト●サービス業 40代
30代半ばで年収700万円、ボーナス以外に業績賞与も。労基署から是正勧告があり残業は激減
低賃金ブラック●化学メーカー 30代
30歳で年収300万円。経営者を含めて主要ポストはすべて銀行の天下りで、昇進できない
地味ホワイト●コンビニ 40代
30歳で年収550万円、本部の管理部門は土日祝日休み。意外とワークライフバランスがいい
40歳過ぎ大手社員5%が精神不調
「御社はブラック企業、それともホワイト企業ですか?」と人事担当者に聞くと、「日本企業の9割はグレーではないか」といった回答が多数返ってくる。
大手住宅設備メーカーの人事担当者は「労働時間も短く報酬も高い、雇用も安定しキャリアを獲得できるホワイト企業なんてあるのでしょうか。若いときに多少無理して残業し、いろんな仕事を経験する下積み時代があるからその後の成長につながり、高い報酬やキャリアを獲得できるのです」と指摘する。
同社は大手ホワイトに入る企業だが、担当者は「超大手企業ほど報酬は高くないが、雇用も安定し、離職率も2%程度。モデル賃金でも給与は安定的に上がっていくし、入社後にうちより高い給料の会社よりも時間軸で見れば生涯賃金はよいでしょう」と言う。
大手ホワイトに共通するのは定期昇給があり、着実に賃金が上がることを示す標準労働者のモデル賃金があることだ。
私が入手した富士フイルムの大卒総合職30歳のモデル賃金は約600万円。35歳で約740万円、40歳の管理職になると約1100万円、50歳約1400万円、55歳約1500万円と右肩上がりの賃金体系になっている。同社の30代の社員は「基本的に年功序列の給与体系です。入社3年目で残業代を含めて年収500万円程度。役職者になると年収1000万円を超えます。残業は恒常的にあるが、その分有休は比較的とりやすい。新規事業に手を出しているが経営は安定し、福利厚生の手厚いところも魅力ですね」と語る。
ただし大手ホワイトに入れば楽園というわけではない。日立製作所グループ企業の元人事担当者は「管理職となると年収800万~900万円はもらう。だが給与や雇用が安定しているためにぬるま湯気分にひたり、仕事に対する意欲を失います。そうなると言われた仕事ばかりをやり、能動性に欠けてくるので鬱になりやすい。40歳を超えた社員の5%ぐらいはメンタル不調者でした」と語る。
また大手ホワイトの中には雇用は確保されるが、50歳過ぎに役職定年で給与が下がるケースもあれば、メガバンクのように50歳前に別会社に転籍させられるケースもある。
「転籍でも本体の課長なら子会社の部長に異動し、当初の給与は維持されるが、その後は本体にいたときよりも下がります。転籍を打診された日立グループの課長から『2カ月後に娘の結婚式があるので、それまで待ってくれ』と懇願されたこともあります。本体の課長という肩書のままで結婚式を迎えたかったそうです」(元人事担当者)
ゲーム事業を手がけるスクウェア・エニックス元人事担当者は在籍当時の状況をこう語る。
「能力・スキルの度合いで給与が上がっていく仕組みはありますが、何歳でいくらというモデル賃金はありません。同じ仕事をやっているとずっと給与は変わらない。入社後数年で格差が開いてくるし、30歳で年収1000万円をはるかに超える社員もいれば、ゲームの動作を確認する『テスター』業務を手がける社員は年収130万円である場合もある。40歳で年収4000万~5000万円をもらっている社員もごく一部いるが、年収300万円程度の社員も少なくない。社員同士もお互いの給与を把握していなかった」
この証言に対しスクウェア・エニックスの経営企画部広報に事実確認を求めたところ、「当社の人事・報酬制度は、明確なルールとプロセスに基づく能力評価・業務評価を基本としており、年齢は評価要素に含まれておりません」「個別のご質問への回答は差し控えさせていただきますが、相当程度の事実誤認が含まれております」と回答があった。
「ゲームの発想が生まれたらすぐに仕事にとりかかり、24時間ぶっ通しで働く人もいます。ゲームを作ることが好きなので公私の区別がなく、彼らにとっては負担にもなりません。会社よりも仕事への執着が強く、いつでも外に飛び出すし、毎年の離職率も非常に高かった」(スクウェア・エニックス元人事担当者)
離職者は低賃金の社員のほか、高額の給与をもらっている社員も含まれる。