朴正熙はひと度、大統領になると、権力に固執し、終身大統領に居座ろうと画策しました。また、自分の座を脅かす者を徹底して排除しました。

権力への執着が金大中事件の伏線に

朴の側近に李厚洛(イ・フラク)という人物がいました。李厚洛は金鍾泌と同じく、諜報畑を歩んで来た人材で、KCIA中央情報部の部長に登り詰めました。李厚洛は北朝鮮との融和を進め、1971年には、平壌を訪問し、南北共同声明を発表しました。

李厚洛の韓国国内での評価が急速に高まり、朴はこれを快く思っていませんでした。そんなある日、首都警備司令官の尹必○(ユン・ピリョン、○=かねへんに庸、以下同)が酒の席で、李厚洛を持ち上げて、「あなたこそ、大統領の後継者だ」と発言しました。

この話が漏れ伝わり、朴の耳にも届きます。朴は怒り狂います。朴は68年の青瓦台襲撃未遂事件後、大統領の座が脅かされることに過敏になっていました。

尹必○と李厚洛は拘束され、取り調べられました。尹必○は解任されましたが、李厚洛は朴の側近の朴鐘圭(パク・ジョンギュ)警護室長の取りなしで、赦免されました。

李厚洛は赦免後、青瓦台の警護室を訪れ、朴鐘圭に「閣下(朴大統領のこと)の怒りをとくにはどうしたらよいだろうか?」と問いました。この時、朴鐘圭は「閣下は金大中(キム・デジュン)を目障りに思っておられる」と答えます。これを聞いた李厚洛は金大中を拉致・暗殺する計画を実行しようと決心します。

次回はこの金大中拉致事件について、詳しく見ていきます。

宇山卓栄(うやま・たくえい)
著作家。1975年、大阪生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。おもな著書に、『世界一おもしろい世界史の授業』(KADOKAWA)、『経済を読み解くための宗教史』(KADOKAWA)、『世界史は99%、経済でつくられる』(育鵬社)、『“しくじり”から学ぶ世界史』 (三笠書房) などがある。
(写真=時事通信フォト)
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